わくわくしないと死んじゃうの

遠征に行っている間に12月はほとんど終わってしまっていたから1日授業を受ければ翌日にはすぐ終業式だった。終業式が終わると少し寄り道をしてから小南との待ち合わせ場所へ向かう。ほんとはいつものように小南とふたり午後から丸々遊びに出かけたかったのだけど、"弟子をとったから無理"と素気なく断られてしまった。遊びに出れない代わりにランチの約束をとりつけたのだ。冬休みに入るとはいえ、翌週はボーダー隊員向けの補講が午前中に行われる予定になっているからしばらく冬休みはお預けだ。午後は午後で防衛任務に入ることが多いから、休みらしい休みではないけれど。待ち合わせ場所につくと、先に来ていた小南に駆け寄る。

「桐絵ちゃーん」
「おかえりなさい、愛真」
「ただいまー!」

小南の学校の近くのちょっとオシャレなカフェに行くつもりで、星輪女学院の近くで待ち合わせたからだろうか。ちょっと澄ましている小南がおかしくて愛真はくすくす笑いが止まらなかった。小南はそんな愛真をちょっと小突いて先に歩いていってしまったので慌てて追いかける。しばらくぶりの小南との会話は弾みに弾んで、あっという間に1時間が過ぎていた。
ランチをするまでは、来る前に寄り道して買ったたくさんのドーナツを小南に預けてランチだけで別れる予定だったけれど、小南の話とボーダーでも珍しい玉狛への新規入隊者に興味が湧いて玉狛支部に顔を出すことにした。命令だったのかもしれないけれど「弱いやつは嫌い」と公言する小南がとった弟子だ。かなり腕は立つんだろう。興味がわいた。

「あれ、愛真ちゃん会いにきてくれたの?お帰りー!元気だった?!」
「む、えまか。ぶじにもどったか。おかえり」
「陽ちゃんもしおりちゃんもただいま〜!」

雷神丸の背中に乗って迎えてくれた陽太郎の頭をよしよししていると、ドーナツの箱に興味津々の陽太郎に箱をとられてしまったので「みんなで食べるんだよ」と釘をさす。立ち上がるとソファに知らない顔がみっつ並んでいた。愛真と同い年くらいの子がひとり、少し年下の子がふたり。口々に「こんにちは」と挨拶をされて同じように返す。

「あ、3人が噂の新人さんだね。桐絵ちゃんに聞いて楽しみで会いにきたの〜」
「あーそれで。修くんやチカちゃんは知ってるかな。本部所属でボーダーの大食いアイドル愛真ちゃんだよ」
「食べるの大好き愛真です!よろしくね〜」
「で、こっちの3人が──…」
「あっまって!しおりちゃんまって〜!愛真当てるから!」

順番に3人の顔を見比べて当たりをつける。

「女の子ひとりだけやから、あなたがチカちゃんやね」
「はい、雨取千佳です。よろしくお願いします」
「こちらこそ〜」

深々とお辞儀をされたので同じようにかえす。

「んー、遊真くんと修くんは…なんか強そうやし、あなたが遊真くんであなたが修くん!…合ってる?」

それぞれの顔をみて首を傾げる。びっくりした顔がみっつ。返事を待たずとも愛真は自分の勘が当たってると確信した。

「おっ愛真ちゃん相変わらず鋭い!こっちの小柄な子が空閑遊真くんで貴重なメガネくんが三雲修くんだよ」

宇佐美の言葉に続いて、空閑と三雲のふたりもそれぞれ挨拶をした。空閑が三雲と同じ中学3年生と聞いて少し驚いたけれど、体の大きさなんて人それぞれだ。それよりも空閑の方は不思議な雰囲気をしている。噂の玉狛の近界民ネイバーかな、なんて思ったところでほぼ間違いないだろうと愛真の勘が伝えていた。

「あれ、陽ちゃんドーナツもう開けてるの?」

ふと視界に入ってきた陽太郎がドーナツの箱をごそごそしていて一人食べ始めそうだったから「みんなでって言ったよ」と嗜める。

「む、おれチョコのやつがいい…」
「全部2コずつあるよ。ほら雷神丸から降りてテーブル座って」

陽太郎からドーナツの箱を取り上げてテーブルの上に置く。少なくとも陽太郎はすっかりおやつモードになってるけれど、帰ってきたばかりの小南をテーブルに座って待っていたらしい新入隊員たちの今日の特訓はまだはじまってないだろう。

「しおりちゃんごめん、まだおやつに早かったよね?」
「いいよ、いいよ。とりまるくんもまだだし。愛真ちゃんもお茶して帰ろ!」

お茶淹れてくるね!
と素早くいなくなる宇佐美を見送ってやりとりを大人しく見ていた新入隊員に目を向ける。

「じゃあみんなも好きなのどうぞ〜」
「む、これはこれは立派なものを」
「愛真のおすすめはねー、これとこれ!あ、まってね。これは桐絵ちゃんと、こっちは陽ちゃんの分」

ペーパーナプキンでドーナツふたつを選り分けて、残った箱を3人に差し出した。

「今度こそ好きなの選んで〜!!」

(20200310)
(20220321)

title by 小径「愛は重いくらいで丁度良い」


High Five!