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(心臓、止まるかと、思った。)

ホラーかよ。

見間違いでもなんでもなく、最後の行にゼファーの名前がある。ゼファーの後継が居た、とか? 公安からはなにも言われていないが。

授業が終わり、先生が教室を出て行ってからスマホを取り出す。ネットでゼファー事務所を検索すると、トップに事務所のホームページが出てきた。開くとシンプルな事務所の紹介ページが表示される。所在地は奈良県。見覚えのある住所の羅列はゼファーが生前経営していたヒーロー事務所のものだった。

ゼファーの死後はサイドキックが引き継いで事務所を続けていたらしい。

知らなかった。というより、気にかけたこともなかった。ゼファーの事務所が、あの人の死後どうなったのか、なんて。

―――名前、変えればいいのに。
純粋な疑問を抱きつつ、スマホを閉じる。

再び紙をめくり、事務所を確認していく。ベストジーニストから指名が来ていたが見なかったことにした。自分から望んで矯正されにいくつもりはない。

わ行の事務所で、リストは終わっていた。疲れた目を休ませようと目を閉じる。公安も、雄英の職場体験のことは把握しているだろう。指示が出ていないということは好きにしていいということ。

……一番近い事務所、どこだろう。

「考え中?」

いつの間にか横にいたお茶子に声をかけられる。目を開け素直に頷くと「たくさんありすぎると迷うよね」とお茶子は笑った。

「麗日さんはどこにするか決めたの?」

出久の質問に、お茶子は「バトルヒーロー“ガンヘッド”!」と答えた。聞き覚えはなかったけれど、出久は知っているヒーローらしい。

「ゴリッゴリの武闘派じゃん! 麗日さんがそこに!?」
「うん、指名来てた!」

宙にパンチするお茶子が言う。自分が目指しているヒーロー像はあるけれど、強くなればそれだけ可能性が広がる。自分のやりたい方向だけを見ていたら見聞が狭まるから、と。

「卯依ちゃんはどんな事務所がいいの?」

出久の言葉に黙り込む。近場の事務所にしようと思っていたとは言えない。……もう少し、ちゃんと考えよう。

「指名数多すぎると逆に困っちゃうね」
「それだけ期待大きいってことでしょ!」

尾白と芦戸の会話に視線を落とす。相澤先生は言っていた。
“指名”は将来性への“興味”だと。
……私の場合はゼファーへの“興味”なんだろう。あるいはゼファーの子供への“興味”か。

「卯依ちゃんがどんなヒーローを目指してるのかで、かなり絞れるけど」

提案してくれた出久に顔を向ける。私の視線に、出久はおそるおそる口を開いた。少し不安そうな表情に首を傾げつつ、続きの言葉を待つ。

「卯依ちゃんは……どうして、ヒーローを目指してるの?」

私は思わず目を丸めた。
そういえば、言って……なかったっけ?
思い出すように目を細めた私に出久は途端に慌てだした。「言いたくないなら言わなくても」と焦る出久にううん、と首を振る。別に隠していたわけでも、話したくないわけでもない。

「話すよ」

それを聞いたお茶子が肩に力を入れたことに気付いた。
お茶子だけでなく出久もだが、なんで二人共、そんなに前のめりになってるんだろう。



▲ ▽



「ヒーロー免許が欲しいんだよ」

デクくんの質問に対する卯依ちゃんの答えは、単純明快なものだった。
プロヒーロー免許。それはヒーローなら誰しもが取得しているもので、ヒーローを目指す私達がいずれ取得しなければならないもの。

「……ヒーローを目指す理由が、ヒーロー免許が欲しい、から?」

私が確かめるように言うと、卯依ちゃんは頷いた。でも、あれ?

ヒーロー免許は、ヒーローになるための過程に得るものであって。免許を取ることがゴールなのだとしたら、

「それじゃあ、免許を取っても、ヒーローにはならないってこと?」
「いや、ヒーローにはなるよ」
「??」

ヒーローという言葉が脳内でゲシュタルト崩壊しだしたところで、卯依ちゃんが続けて言った。

「勿論、資格を取得したらヒーローとして最低限の活動はする。けど、人助けがしたくてヒーローになるわけじゃないから」

卯依ちゃんの言葉に一番驚いたように見えたのはデクくんだった。峰田くんが首を傾げて問いただす。

「父親がヒーローだからか? やりたくないのにやらされてるのか?」
「いや」
「……お金、とか?」
「お金も名声も要らない。目立つの嫌い」

そう口にする卯依ちゃんの表情は嘘をついているようには見えなかった。梅雨ちゃんは前に、卯依ちゃんは嘘が苦手だって言っていたけれど、もしも今、卯依ちゃんが嘘をついていたとしても、私には見抜けそうになかった。全部本当のことを言っているようにも聞こえるし、冗談が混ざっているような気もする。抑揚のない淡々とした口調が、読み取りづらさを助長していた。

「どうしてヒーロー資格が欲しいの?」

デクくんの言葉に、卯依ちゃんは初めて言い淀む様子を見せた。でも視線を逸らすことはなく、答える。

「資格未所持者が許されている“個性”の使用範囲はあくまで自衛だけ。でも、それじゃ困るんだ」
「……」
「“個性”を使えるように、資格が欲しい。攻撃は最大の防御って言うでしょ」

下から見上げてくる卯依ちゃんに、私はなにも返せない。想像していた答えとはかすりもせず、なにより、卯依ちゃんの答えがどれも事務的で、卯依ちゃん自身の感情が全く読み取れなかった。

ヒーロー資格が欲しい。資格を取った以上はヒーローとして動くが給与も賞賛も要らない。
ただ、“個性”を使用するための資格が欲しい、と。

攻撃は最大の防御、まるで誰かと戦うことを想定したような言葉だ。ヒーローが戦うとしたらそれは敵なのだろうけれど……。なんだか、それじゃまるで、「敵と戦うために」資格が欲しいみたいだ。

卯依ちゃんはしばらく考えるそぶりを見せてから、希望届けにペンを走らせ、「相澤先生追っかけて提出してくる」と教室を出て行ってしまった。体育祭のときに、卯依ちゃんが自分のことを話してくれることを望んでいたのに、話を聞いても、謎が深くなる一方だ。