緑谷と待ち合わせ
休日に家を訪ね掃除をしていると、俊典さんからヒーロー展のペアチケットを渡された。チケットには思いっきり俊典さんの本名が書かれているので、横流しするにも相手が限られる。
(出久に渡すか……)
翌日出久を廊下に呼び出してチケットを差し出すと、出久は大きな目を見開いてから動きを止めた。頬を赤くした出久が、ガクガクと震える手でチケットを掴む。これでよし。
「あ……ありがとう、卯依ちゃん。僕もこのイベント気になってて、チケット買おうと思ってたところなんだ!」
「うん」
「いっ、いつ行こうか!!」
「え?」
「平日と土曜は学校があるから必然的に日曜しかないんだけど、卯依ちゃんにも予定があるだろうし」
思いっきり目を逸らされながら言われた言葉に首を傾げる。なにも言わない私に出久も視線をあげてから、同じように首を傾げた。「なんで私の予定が関係あるの」と口にすれば、出久はぎょっとしたように叫ぶ。
「あれ!? 卯依ちゃんは行かないの!?」
「要らないから出久にあげた」
「あ……そういうことだったんだ……てっきり一緒に行こうってことかと」
揺れている瞳をじっと見つめる。出久は口をもごもごさせてから小さく呟く。
「き、きっと、楽しいよ?」
「うーん」
「……美味しいご飯も、たくさんあるよ」
「行く」
「早ッ!!」
▲ ▽
待ち合わせの三十分前には到着するように、と意識して動いていたら、気付くと一時間前には待ち合わせ場所についていた。リュックを背負い直して深く息を吐く。それから数十分程、スマホでこれから行くイベントの詳細などに改めて目を通していると「お待たせ」と声をかけられた。卯依ちゃんだ、スマホから顔を上げた僕はヒュッと息をのんで固まる。
卯依ちゃんは黒いシャツワンピースを着ていた。白い花の柄が散らばったデザインを腰のベルトで絞り、膝下丈の裾が卯依ちゃんの動きと一緒に揺れている。髪も一つに結われて、普段は真っ直ぐの髪が今日はくるくると巻かれていた。顔もなんだかいつもより華やかさが増しているような……。
「……どこか変?」
「変じゃない!」
「凄い見てくるから」
「それは……」
―――あまりにも可愛すぎて言葉が出なかっただけ、とはどうしても言えず、もごもごと「見慣れない格好で、驚いて」と呟く。
「まあ、いつも制服だしね」
「……卯依ちゃん、休みの日はいつも、その……」
「?」
「……そんなに、かかかか、可愛い格好してるの?」
「……」
ほぼ真下を見ながら言うと、卯依ちゃんはしばらく黙り込んでいた。卯依ちゃんの白い足と黒いストラップシューズが見える。しばらくそうしていると、正面からぼそっと「いつもじゃない」と言う卯依ちゃんの声が聞こえた。おそるおそる顔をあげて見ると、卯依ちゃんの頬は少しだけ熱を帯びたように赤く染まっていた。
「今日はちょっと、頑張った」
恥ずかしさを隠すように目を逸らして言う卯依ちゃんを見ながら、ばっくんばっくん煩い胸元を必死で押さえつける。
僕、スーツを着てきた方が良かったんじゃないだろうか。