3
屋外ではなく、凶悪敵の出現率が高い屋内での対人戦闘訓練。公安と似たような訓練か、と肩を落とす。ゲフン、と咳き込んだ俊典さんに視線を向けるも、血を吐いている様子は無かった。確かにヒーロー活動をして飛び回られるよりは、教師として一箇所に留まってくれるほうが安心はできる。けれど、授業を一人で受け持つとなると負担が大きいのではないだろうか。教師はみんな俊典さんの時間制限を知っているだろうから、フォローはしてもらえるのかもしれないが……。
敵側とヒーロー側の二手に分かれて屋内戦をすることになり、やけにアメリカンな設定とクリア条件を聞かされる。その後くじでチームを決めることになり、俊典さんの持つ箱に手を入れた。
人数の都合上、ひとつだけ三人組が出来るが対戦チームも一人追加して戦うらしい。つまり二度、戦闘訓練に参加する生徒が出てくる。真っ先に触れたボールを取り出すと、ボールにはJと書かれていた。
くじを片手に同じチームを探すと、切島ともう一人ヘルメットを被った男の子がJのボールを持っていた。誰だ? じっと見ていた私の視線に気付いた男の子がヘルメットを外した。ああ、隣の席の……。
「俺、瀬呂範太ね。よろしく」
「実操卯依、こちらこそよろしく」
「っしゃー! ぜってー勝つぞ!」
熱くなっている切島を軽く受け流し、対戦相手の組み合わせ発表を待つ。俊典さんの手にあるボールはAとD。誰だろうかと辺りを見渡せば、出久と麗日がAのボールを持っていた。対戦相手は……と思って顔を動かしてから、飯田と爆豪が俊典さんに話しかけられていることに気付く。もしかして初戦から出久と爆豪が戦闘? 妙な縁があるものだ。
残りの生徒と一緒にビルの地下、モニター室へと向かう。五分後、訓練が開始され、ヒーローチームが窓から侵入していくのが見えた。あちこちにカメラがあって両チームの動きがよく見える。開始とほぼ同時に、五階の核が置かれた部屋から爆豪が飛び出していく。飯田が引き止めている動作を見せているので、爆豪が暴走でもしているのかもしれない。あるのはモニターから流れる映像のみで、音声は聞こえない。
―――“個性”の調整は出来ない。ならどうやって戦うのか。
死角から飛び出してきた爆豪の奇襲を、出久は避けた。まるで分かっていたように。麗日を庇うように床に倒れた出久のマスクは、爆豪の“個性”で半分が破れてしまっている。
「爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねえ!!」
「奇襲も戦略! 彼らは今 実践の最中なんだぜ!」
出久は爆豪の大きく振り上げた右腕を掴んで懐に踏み込み、背負投の形で地面に叩きつけた。まるで動きを読んでいるようだった。予測? 爆豪が戦う姿を見たことがあるのだろうか。
その後も爆豪の攻撃を防ぎつつ捕獲証明のテープを巻こうとしたり、出久は“個性”を使わずに渡り合えているように見えた。爆豪も動揺が隠せないのか焦りが伺える。麗日が二人から離れて核の捜索へと向かう中、爆豪はそんなの眼中にないようで出久だけを追っている。この二人、一体何があったのだろうか。出久が爆豪に怯えていることは見て分かる。だけど爆豪が出久に向けるあの激情は、一体なにが原因なのだろうか。
麗日と飯田が相対したのとほぼ同時に、爆豪が通路の先に居る出久に向かって右腕を向ける。
「?」
「爆豪少年ストップだ。殺す気か!」
俊典さんが無線を通して叫んだ直後、モニターが光で染まる。つんざくような爆発音が地上から聞こえ、咄嗟に耳を抑える。
「……っ」
同時に脳裏に過ぎった情景が、私の心を乱す。脳を揺さぶる爆発音、眩しいくらいの光、あたりを包む熱い煙、音を立てて崩れる建物、倒れている―――
「緑谷少年!!」
俊典さんの叫ぶ声ではっと顔をあげ、モニターへと視線を向ける。出久は直撃は免れたようで大怪我はしていなかった。それに安心して肩の力を抜く。俊典さんからの指導を受けた直後、大規模な爆破攻撃をやめて最初の戦い方に戻した爆豪は、正直見ていられない程出久を痛めつけていた。モニター室のあちこちから、爆豪の行動を非難する言葉が聞こえる。
爆豪に背を向けて出久が走り出す。勝つ方法を見つけたのだろうか。音は聞こえないけれど、二人はお互いになにかを叫んでいる。必死の形相で、なにを伝えているのだろうか。
爆豪と出久が同時に駆け出し、拳を握っている。爆豪は爆破を、腕の部分が弾けていることから、出久は“個性”を使おうとしてる。私は俊典さんを見上げて言った。
「止めないの?」
質問というよりは、ほとんど責めるような口調で言ってしまった。それでも、出久が傷付く道を進んでいるのが分かっていて、あえて突き進ませるなんて見過ごせない。
「双方……中止、」
俊典さんの言葉は中途半端なところで途切れる。モニターには予想していなかった光景が映し出されていた。出久は爆豪に向けていた右腕を天井へ向けて放ち、五階の天井さえ突き抜ける程の大穴を空けた。その衝撃で全ての階の窓ガラスまで飛散している。それを知っていたように、麗日が支柱を持ち上げて瓦礫を飛ばし……。
―――これ、核を保護するっていう設定だったような。
ぽかんと浮かんだ疑問をよそに、麗日が“個性”を使って飛び上がり、核に触れた。
「ヒーローチーム……WIIIIIIN!!」