春の針
マスコミの侵入があった翌日、一限目を終えた私はクラスメイトとの会話で、俊典さんが通勤の途中に事件を三件も解決したということを知った。
―――私から言っても効果が無いことは分かっている。お昼休み、根津校長にお願いして俊典さんに話しをしてくれるように頼もう。これじゃあ何のために教師になったのか……。教科書を用意しながら、深くため息を吐いた。
根津校長を訪ねて頼みごとを終えたあと、午後の授業はヒーロー基礎学だった。相澤先生の説明で、授業が俊典さんを含めた3人体制になったことを告げられる。特例というが、昨日のセキュリティ突破が関係しているのだろうか。人命救助訓練のために場所を移動すると指示を受け、コスチュームに着替えてバスへ乗り込む。出席番号順に並ぼうと飯田に言われて指示に従ったが、結局ばらばらに座ることになった。出久の隣に腰掛け、すぐに眠る体制につく。満員電車を避けるために早起きしたせいで、少しだけ寝不足だった。目を瞑ってバスの発車を待つ。数分もしないで眠りについた私は、出久が梅雨ちゃんに「オールマイトの“個性”に似ている」と言われて焦っていることなんて知りもしなかった。
▲ ▽
蛙吹さんの発言に慌てて卯依ちゃんへ助けを求めると、いつの間にか眠ってしまっていた。僕が誤魔化そうと口を開くと、切島くんが「似て非なるアレだぜ」とフォローしてくれた。(事情は知らないので偶然だけど)その後、話の内容が“個性”についてに変わったことにホッと安心する。
「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪だな」
「ケッ」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラ出すわ!!」
「ホラ」
その後クラスメイトにいじられるかっちゃんという、人生初の光景を目の当たりして雄英の凄さを認識していると、肩に重みが伝わった。顔を向けたのと同時に、花の香りが届いて顔が赤くなる。バスの揺れで傾いた卯依ちゃんが、僕に寄りかかるように眠っていた。
「実操くん、ぐっすり眠っているようだな」
「うううう、うん」
「緑谷役得じゃん」
「えっ!?」
「緑谷ちゃん顔が真っ赤よ」
さっきから動揺しっぱなしの僕を置き去りに、今度は車内が卯依ちゃんの話題に包まれる。
「実操の“個性”もすげーよな! だってゼファーの“個性”だぜ?」
「……チッ!!」
「なんで実操の話題で爆豪が舌打ちすんだよ……」
かっちゃんは顔を背けて窓の外を向いてしまった。いつ怒りが爆発するかと心配していた僕は、切島くんがなんとなく口にした言葉にひっかかりを覚えた。
「けど、実操ってあんまりゼファーの“個性”使わないよな」
「確かに、個性把握テストで見たきりだよね」
「昨日の戦闘訓練でも、サイコキネシスは使ってなかったわ」
「単に植物操作が得意なんじゃないか?」
みんなが卯依ちゃんの“個性”について議論を交わしている間、卯依ちゃんは静かに眠っていた。僕は会話に参加せずに視線を流し、たまたまかっちゃんが目に止まる。その口元が微かに動いたとき、かっちゃんがなんて言ったのか、僕には聞き取れなかった。