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※バブルガール視点
サー・ナイトアイからの指示で雄英体育祭を見に来ていた私は、モニターに大きく映し出されている女の子を見上げた。
数年前、ナイトアイ事務所に雇ってもらったばかりの頃にサーから紹介された女の子。卯依ちゃん。サーに引き取られたという彼女の父親が、十年前に亡くなったNO.3ヒーロー・ゼファーだと教えられたのは出会ってすぐの頃だった。
「先頭二人が圧倒的だな」
「“個性”の強さもあるがそれ以上に、素の身体能力と判断力がズバ抜けてる」
「超能力の“個性”ってことは、飛んでる子供がゼファーの隠し子か?」
少し離れたところで聞こえたヒーローの名前に力が入る。さりげなく視線を向けたところで「全然似てねえな」と言う言葉が聞こえ、思わずムッと口を尖らせてしまった。ゼファーとの比較。それが卯依ちゃんの心を逆撫でする言葉だと知っているからだろうか。
「もう一人はフレイムヒーロー、エンデヴァーの息子さんだよ」
「ああー……道理で! オールマイトに次ぐトップ2の血か」
「エンデヴァーとゼファーの子供が競いあってんのかよ! 熱いな!」
「おれゼファーの子供応援するわ! 昔ゼファー好きだったんだよ!」
二分割されたモニターに映し出される卯依ちゃんは、追尾してくる飛行型の仮想敵に向けてエネルギー弾を放ち撃墜している。その度に盛り上げる観客はあの子のことを「ゼファーの後継」としか見ていない。ゼファーの技は出来て当然と思っているのだろう。私だって、彼女をよく知らないままだったら同じように考えていたかもしれない。凄いなあ、羨ましいなあなんて、卯依ちゃんのこれまでを知ろうともせず。
でも、私はそばで見てきた。“個性”の扱いで苦労して、悔しがって、それでも必死に努力していた卯依ちゃんの姿を。
卯依ちゃんを奮い立たせているのは血じゃない。“個性”でもない。サーと同じ。大切な人を幸せにしたいという、ただそれだけの願いの為に茨の道に突き進む。
「かっこいいよ、卯依ちゃん」
いつの間にか強く握りしめていた拳を膝に落とす。客席のみんなに自慢したい。モニターに映っているのは、かっこよくて努力家で、誰よりも優しい私の妹分です、って!
「あっ、そうだ……写真撮らなきゃ」
足元のカバンから一眼レフを取り出す。帰ったらサーにも見せてあげないと。
ギリギリまで会場に来るかどうかを悩んでいたサーの姿を思いだし、笑みを浮かべる。大丈夫ですよ、シャッターチャンスは見逃さないんで!!
▲ ▽
紅白頭のすぐ上を維持しつつ最終関門に差し掛かる。炎を使ってくれたらエネルギーの吸収が出来て助かるなーなんて考えていたけれど、轟は炎を使う様子がない。使わなくても抜けられる障害だからか。
「一面地雷原! 怒りのアフガンだ! 地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ! 目と脚酷使しろ! 勿論、飛行ロボも脇に控えてるぜ!」
スピードを緩めた轟の上を飛んでいく。嫌な起動音が聞こえて横を見れば、つい先ほど壊したばかりの仮想敵がいた。「ホウフク!ホウフク!」と機械音を発しながらついてくる。仲間意識とかあったのか。
「ちなみに地雷! 威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!」
「人によるだろ」
目を凝らして地面を見る。掘ったような跡、遅れ始める轟。先頭を走る人間程不利な競技だ。飛べば地雷は回避できるがそうなると追尾ロボがまっすぐに向かってくる。
「はっはぁ俺は、関係ねーーー!!」
爆豪の声が聞こえて振り返る。後続も追いついたようで、あちこちで地雷が爆発し始める。自身のすぐ後ろ、険しい表情の二人が引っ張り合いつつ駆けているのを確認してから、彼らの頭上にある飛行敵の群れに視線を向ける。よし、ここで迎え撃つか。
飛行を維持しつつ自分が飛んでいる位置より後方に向けてエネルギー弾を発射する。立て続けに二回、三回。その衝撃で起爆した地雷が、轟と爆豪の行く手を阻む。
「てめぇ!! 白髪女!」
目を尖らせた爆豪が般若のような形相で叫ぶが無視だ無視。爆煙から出てきた飛行敵を巻き込むようにエネルギーの操作で風を操る。煙で空気の流れが可視化されているとやりやすい。そのためにわざと爆破させたのであって、意地悪しようとかそういうのではない。
「発生した旋風で飛行ロボが巻き上げられていくー!!」
プレゼント・マイクの放送が耳に届く。このまま飛行を維持して、まっすぐ飛んでいけばスタジアムに着く。爆発による音を聞いてから心臓の音が大きくなった。まるで耳元で鳴っているみたい。早くこの場から離れて息を整えたいと考えていると、遥か後方から今日一番の大爆発が巻き起こった。
「!!!」
耳を聾する爆発音に、呼吸がつっかえる。脳が揺れるほどの動揺を堪えるように胸元を握り締める。反射で振り返った先に見たのは、仮想敵の装甲にしがみつくようにして空を飛ぶ、出久の姿だった。