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「もう少々終盤で相対すると踏んでいたが……随分買われたな緑谷」
「時間はもう半分! 足止めないでね! 仕掛けてくるのは……」
轟の騎馬の向こうから二つ、左右からそれぞれ一つの騎馬が向かってくる。
「一組だけじゃない!」
常闇の向こう、轟が八百万の背後から引っ張り出してきた布を被った直後、視界が白い光に包まれる。バチっという音が耳を突き、それと同時に全身に走った電撃と痛みに顔をしかめる。
「〜っ!!」
―――上鳴の“個性”……。 こんな広範囲の技が使えたとは知らなかった。八百万が出した布は絶縁体シートか!!
放電で動けなくなった周囲の騎馬を足止めするため、轟が氷結で地面を凍らせこちらへと突っ込んでくる。
「強すぎるよ! 逃げられへん!」
「牽制する!」
黒影が轟へと攻撃を仕掛けるも、八百万の“個性”で出現した装甲に阻まれてしまう。作戦会議で言っていた黒影の弱点。攻撃力の低下。上鳴の放電、八百万の防御、飯田の機動。轟は良いチームを組んだものだ。
それで“左側”も使っていれば……、
「麗日さん、卯依ちゃん、作戦通りに」
「うん!」
「……」
麗日がもう一度全員に“個性”をかける。私も足元のエネルギーを一定量保ったまま、“個性”を発動させた。
▲ ▽
「轟くんは炎を使わない?」
麗日さんが首を傾げながら言った言葉に、卯依ちゃんが頷く。
「本人が言ってたよ。『父親の力を使わずに一番になる』って。私の隙を作るための嘘だったら、まんまと引っかかってることになるけど」
「いや、嘘じゃないと思う。轟くんはこれまでも、使えば有利になる場合であっても左側を使っていない」
僕はぽつぽつと答える。これまで轟くんが“個性”を使用した場面、その状況。正直、抱いた違和感はほんの小さなものだった。それこそ「気のせい」だと一蹴されれば消えてしまいそうなぐらいの予想。
“個性”把握テスト、USJ、体育祭の障害物競走。他にも授業で“個性”を使ったときもそうだった。轟くんは意識的に、炎を使わないようにしているように見える。
「言われてみれば、攻撃で使ったところは見たことがないが」
「ハッ。使わずに勝てると思ってんのが腹立つわ」
卯依ちゃんが嘲笑するようにわざとらしく息を吐き出す。その温度の無さに思わず肩を跳ね上げたが、同じように麗日さんや常闇くんも卯依ちゃんの態度に驚いたようだった。珍しい卯依ちゃんの感情の起伏に目を見張る。心底不快そうに顔を歪めて、卯依ちゃんは他所を睨んでいた。鋭く尖った赤い瞳からは光が消えている。一度伏せられて、ゆっくりと開かれた瞳は普段通りの温度をしていた。
「う、卯依ちゃん?」
「弱点があるのなら、突いていこうよ」
こちらを見て言った卯依ちゃんに頷く。轟くんの弱点を利用した作戦を考え、それを全員に共有する。四人で作戦内容を確認しつつ、卯依ちゃんに対して浮かんでいた疑問は口に出せずに飲み込んだ。
以前切島くんが言っていた。卯依ちゃんが、ゼファーの“個性”をあまり使わないこと。あえて使わないのかもしれないと思ったこともあるけれど……。轟くんが“個性”を使わずに戦うことを嫌悪しているようにも見えるし……。
―――やっぱり、使わないんじゃなく、使えないのだろうか。
卯依ちゃんの“個性”は分からないことが多すぎる。超能力、と一言で言ってしまえば分かりやすいが、その原理も、発動条件も、使用することで生じるデメリットも全てが謎だ。オールマイトが時間制限を抱えて戦うように、卯依ちゃんにも致命的な弱点があるのだろうか。USJで見た、“個性”が使えなくなる状態になったのは何故だろう。その直前に使用していたバリアのせい? それとも環境が原因だろうか。時間帯、場所。体調に影響を受ける可能性は? あの日の卯依ちゃんは――――――「おーい」……。
「えっ!?」
顔を覗き込むようにしてこっちを見上げる卯依ちゃんに驚いて飛び上がる。麗日さんも常闇くんもこちらをじっと見ている。―――しまった!
「デクくん、自分の世界入っとったね」
「時間がない。轟への対抗策はあれでいいのか」
「うん、さっきので行こう! ごめん!」
「ブツブツ人の弱点を考察しないでよ」
「口に出てた!? ごめん!!」
汗をだらだら流しながら口を抑える僕を、卯依ちゃんはじっと見つめる。うっ。ごめん……。