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開始の合図と共にお茶子が駆け出す。低い姿勢のまま爆豪までの間合いを詰めていく。指一本でも体に触れたら浮かされるのなら、お茶子とは常に距離を取っていたいだろう。案の定爆豪はお茶子の攻撃に回避ではなく迎撃を選択した。
麗日の眼前で爆豪の右手が爆破する。爆音と共に暴風がお茶子を襲い、お茶子の動きが止まった。煙のせいで視界が塞がった爆豪が伸ばした手が掴んだのは、宙に浮いていたお茶子のジャージ。爆豪の背後に回ったお茶子が爆豪に手を伸ばすも、振り向きざまの爆破で再び距離を離されてしまう。
―――爆豪の反射速度が厄介だな……。触ることが発動条件な“個性”である以上、お茶子の不利はどうやっても覆らない。
屈せず追撃を続けるお茶子に対し、爆豪も爆破で対応を繰り返す。
「おらあああああ!!」
お茶子の叫ぶ声が耳に届く。ボロボロになっていくお茶子の姿を見て観客席から徐々に悲鳴があがる。その声に比例するように、爆豪に対する非難が会場に溢れた。
「女の子いたぶって遊んでんじゃねーよ!」
はっきりと聞こえたその言葉に思わず眉を顰めたとき、先程まで騒いでいたプレゼント・マイク先生の声が遠ざかり、低い声音がマイクを通して聞こえた。
「今遊んでるっつったのプロか? 何年目だ?」
「!」
「シラフで言ってんならもう見る意味ねえから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ」
「相澤先生……!?」
しんと静まり返った会場の中で、相澤先生の声だけが広がる。
「ここまで上がってきた相手の力を、認めてるから警戒してんだろ」
ステージに立つ爆豪の警戒態勢は解かれていない。お茶子も同じく、戦意を失っているようには見えなかった。―――なにより。と、ステージの上へと視線を向ける。
「本気で勝とうとしてるからこそ、手加減も油断も出来ねえんだろが」
背筋を伸ばしたお茶子が指の腹を合わせる。
―――“個性”の解除。
「勝あァアァつ!!」
爆豪が見上げた先にあるのは重力に従って真っ直ぐ落ちてくる瓦礫の数々。低姿勢での突進で爆豪の攻撃を利用することで地面を砕き、“個性”で浮上させていた、お茶子の武器。繰り返していた突進も、爆豪に気付かれないように視野を狭めるための作戦。
「流星群―!!!」
ステージ全体に降り注がれる瓦礫がお茶子を避けるわけじゃない。爆豪へと距離をつめるお茶子の体にも小さな瓦礫が掠っているのが見える。なんて捨て身な作戦を……、と心の中で思うのと同時に出久も同じことを口にしていた。
落ちていく瓦礫の間を走るお茶子が、爆豪に迫る。
“個性”発動のために手を伸ばすも―――
全ての音をかき消すような爆発が起こった。
観客席まで届く風に体が強張り、咄嗟に顔を逸らす。再びステージへと目を向けると、落下していた瓦礫は全て爆豪の“個性”で塵と化していた。間近で爆風を受けたお茶子は体制を崩して地面に倒れている。
「会心の爆撃! 麗日の秘策を堂々―――正面突破!!」
まっすぐ立っている爆豪と、倒れたままのお茶子。あれだけの数を“個性”で浮かせていたのなら、許容重量はとうに……。
力を振り絞って立ち上がったお茶子が駆け出そうと足を踏み出すが、地についた瞬間に力が抜けたようにその場に崩れてしまった。起き上がろうと這いずるお茶子にミッドナイト先生が歩み寄っていき、そして―――。
「麗日さん、行動不能。二回戦進出、爆豪くん!」
搬送ロボによってお茶子が運ばれていく。爆豪がステージを後にするのを見て、隣の出久が立ち上がった。
「……それじゃあ、行ってくるね」
「うん」
緊張した面持ちの出久が席を立つ。自然と視線で追っていた私は、同じように席を立った轟と視線がかちあってしまった。あいも変わらず鋭い眼光。轟の対戦相手は私じゃなくて出久なんだけど、分かっているのだろうか。