あなただけが私をかたちづくった


慣れぬ土地で、騎士に連れられてやってきたのは帝都にある教会だった。
皇族として相応しい格好を、と着せられた白い装束と飾りが風に揺れる。
多くの人間が教会に集っていた。その装いを見るに、ほとんどの人間が高貴な身分なのだろう。
私は促されるままに奥へと連れて行かれ、レーム皇妃と、その息子である幼い子供の横に立たされた。何度か顔を合わせただけの、深い繋がりもない二人だ。

ふいに当たりがしんと静まり返り、肩に皇妃の手が置かれる。
日焼けなど知らぬ、触れれば柔らかそうな手だった。

教会の入り口から大勢の人が流れるようにやってきて、その最後尾には見覚えのある男の姿があった。

レーム帝国、第一皇子。
リジル・ユリウス・カルアデス。

これまで存在すら知らなかった男。
彼は見たことのないような真剣な表情で、通路を進んでいく。

奥から司祭と皇帝が現れ、祭壇の前に立った。
その眼前に辿りついた皇子がおもむろに膝を折り、その場に跪いた。
皇子は両膝を床につけ、無防備な姿を晒している。

皇帝と皇子は親子だというのに似ても似つかない。
皇子によく似ていると言われる私も、おそらく皇帝とは似ていないのだろう。
鏡を見たことがないので、分からないが。

祭壇に置かれた剣を司祭が手に取った。
柔らかな草色を基調としたその剣が、皇帝の手に運ばれていく。

―――騎士たるもの、と皇帝は口を開いた。

自分の目の前で繰り広げられる不思議な儀式に目を開く。

皇子は皇帝の言葉を繰り返し、剣に誓いを立てた。
皇帝は剣の平で皇子の肩を二度打つ。
そして、剣先を下ろして告げる。

「レーム皇帝の名において、汝を騎士とす」

皇子が剣を受け取る。
その後皇帝や司祭が去っていくと、皇子は傍らの従者とともに来賓との交流を始めた。顔見知りばかりなのか、皇子や来賓の表情は明るく、楽しげだ。

「殿下」

呼び慣れないその呼称はまるで自分ではないようで、私は弟に続いて教会を出る。最後に、開いたままの扉の奥、人に囲まれて笑みを浮かべる皇子を見る。

(―――なんて、眩しい。)

正しさを具現化すると、人はこんな形をしているのだと思った。
その輝きに目が眩みそうだった。


―――この人が、
―――この人こそが、


その日の夜半。叙任式を終えた皇子が私室を訪ねてやってきた。
皇子はいつものように本や楽器を携えている。
レーム帝国に来てから部屋に篭もりがちだった私を、この人は何故か気にかけてくれていた。
私は従者に頼み書庫から持ってきてもらった「騎士道物語」という本を胸の上に掲げる。

「兄上、」

何度も練習したその呼び方はべったりと喉元に張り付いたように違和感が拭えない。

「私も、騎士になります」

青磁色の瞳が揺れる瞬間を、見た。