八芒星の計画書


銀行屋を名乗る男がシンドバッドの手で打倒された直後。
遠く離れた地で、仲間の消滅を察知した謎の魔道士が呟く。
「おや、消えましたね」
淡々とした温度のない声が続いた。
「ええ、消えました」
仲間が死んだというのにそこに憤りはなく、同情も感じられない。
一定の声音が静かに流れ続け、その場は異様な雰囲気を醸し出している。
「我々の金属器の一つが……」
魔道士が集い、輪となったその中心には意識を失っているジュダルの姿があった。その体にはハルの手によって刻まれた傷が残されている。
「あの国は“ジン”の錬成には早すぎたのでは?」
「いえ、致し方なかったでしょう。もう一人の“マギ”の出現とあってはね・・・・・・」
「聖宮でかくまわれていた例の“マギ”です。彼は“ソロモンの知恵”を手に入れた。そして、彼の選んだ一人の未熟な王によって、我らの“流れ”は変えられてしまったのです。
―――なにより問題なのは、“あの男”の後継がこの世界に現れたことです」
「それも、既に“マギ”、“王”と合流している。再び我々の障害となることがあれば脅威となるでしょう」
「レームの皇女には手を打っているはず。問題はありません」
意識のないジュダルの人差し指がぴくりと動く。
「ただ、彼らは……あの“第一級特異点”の男と手を組みつつある」
「邪魔ですね」
「邪魔ですねぇ」
「単に、いつものソロモンの“傲慢なる妨害”でしょう。似たようなことは、過去にも数世紀おきに何度かあったこと。今回も、我々は屈せずに立ち向かえば良いのです」
「そうですね」
「その通り」
「我々は未来永劫、この世に暗黒を作り続けると致しましょう」

ゆっくりとジュダルの瞼が開かれ、血のような赤が覗く。
その脳裏にはかつての記憶が明滅していた。村を襲った悲劇、両親の死、血が広がる床。地獄のような光景を前に激情がこみ上げる。ぐつぐつと湧き出る感情に支配される直前、ジュダルは確かに淡い光を見た。
遠い西方の地、風で舞う金の髪と暗く灯る草色の瞳。石を投げつけられ血を流す幼い子供の姿。
自分と同じ、ひとりぼっちの―――。
重い瞼を持ち上げているのが億劫になって、ジュダルは再び目を閉じた。宝石のような赤が隠される。

「我らが父の作られし、真なる民の共同体」
「“八芒星アル・サーメン” の“計画書アジェンダ”のままに」

瞳は開かない。