アラジンと行く砂漠珍道中
「ねえハルさん」
「はい、なんでしょう。アラジン」
「ずっと気になっていたんだけど、ハルさんは、どうしてそんな格好をしているんだい?」
アラジンの言葉に、ハルは鎧兜の下で目を瞬きさせてから口を開いた。
「そんな格好、というと?」
「そのゴツゴツした硬い金属のことだよ。全身を覆って、肌を隠しているでしょう? どうして?」
「……私は騎士ですので」
「きし?」
「戦士階級の一つです。ですから、こうして鎧を身に纏っています」
「顔も隠さなくちゃいけないの?」
「それは……全員が兜を着用しているわけではありませんが……私は、顔を見られたくないので」
「そうなんだ。あのね、ハルさんのお顔はとても綺麗だから、普段見えないのは残念だなあと思ったんだ」
真っ直ぐすぎる発言にハルがたじろいでいるのをよそに、アラジンは誰にも聞こえない声量で呟いた。
「おっぱいが恋しいな……」
むさくるしい商人の男達の集団に囲まれながら、アラジンはこれまでに会った柔らかくていい匂いのするおねえさんのことを思い出すのだった。
「ねえハルさん」
「はい」
「この前言っていた、きしについて詳しく教えてくれないかい?」
「構いません」
ハルの言葉に笑みを浮かべたアラジンが、ハルの隣に腰掛ける。何から話せばいいのか、と腕を組んだハルを見上げて、アラジンは言葉を待った。
「少し話しましたが、騎士というのは軍役を負った戦士階級の一つです」
「??」
「すみません、難しい言葉でしたね。……国家や主君のために生きる戦士の中でも、騎士というのは、認められた者だけが与えられる称号なんです。軍隊に入れば、みな軍人と称されますが、騎士はそうではありません」
「どうすれば騎士になれるの?」
「まずは主君の元で小姓となり、騎士としての初歩を学びます。勉強や武術、騎士が従う行動規範などです。ゆくゆくは見習い騎士として働き、実際の戦闘にも参加します。そして一人前として認められれば、主君から叙任の儀式を受け、正式に騎士となるのです」
「それじゃあ、ハルさんもその儀式をしたのかい?」
「ええ」
「へえ……」
難しい言葉ばかりで半分ぐらいしか理解できなかったアラジンと、自分の説明下手に戸惑うハルはしばらく視線を合わせていた。
「ねえハルさん」
「はい」
「騎士道ってなんだい?」
ハルが騎士と知った隊商長が発した単語の意味が分からず、アラジンはハルのところへやってきた。質問を受けたハルは荷を運び終えたところだ。
「騎士道というのは、騎士が従うべき規範のことです」
「きはん」
「騎士ならばこうするべきだ、こうあるべきだ、という決まりごと……のようなものですね」
「例えばどんなものがあるんだい?」
「騎士は優れた戦闘能力を持つこと、勇敢であること、嘘偽りを述べないこと、惜しみなく他者へと与え寛大であること、悪に対抗し正義を守ること、常に礼儀を忘れないこと、清貧を保つこと、主君に対する服従を誓うこと、愛国心を持つこと、弱者を保護すること……等でしょうか」
「た、たくさんあるんだね……ハルさん、よく覚えていられるね」
「この教えは、小姓となれば叩き込まれるものですから」
「騎士の人はみんな、その決まりに従うのかい?」
「ええ」
「ハルさんが何度も、僕やアリババくんを助けてくれたのは、その騎士道があるから?」
「……」
「白瑛さんを助けたのも、騎士道なのかい?」
「……おかしいでしょうか」
「ううん。騎士とか規範とか、僕には少し難しいけれど……騎士道っていうのは素敵だね。僕、とても気に入ったよ」
「……」
「また質問してもいいかい?」
「勿論。私が答えられることなら、いくらでも」
「ねえハルさん」
「はい」
「ハルさんと一緒に居るお馬さん、名前はなんていうんだい?」
「シルフルといいます」
「なんだか格好いい名前だね」
「ふふ、ありがとう」
「ねえハルさん」
「はい」
「ハルさんの特技ってなんだい?」
「剣には自信があります。それと弓も」
「弓?」
「はい。機会があれば狩りをお見せします。こう見えて結構腕が立つんですよ」
「わあ! 見たい見たい!」
血まみれになりながら動物を掻っ捌く主人公を見てドン引きするアラジンが居たり居なかったり。
「ねえハルさん」
「はい」
「食べ物の好き嫌いはある?」
「特にこれといって挙げられるものはなにも……辛いものは少し、苦手ですが」
「辛いもの?」
「はい。兄が辛い料理が好きで、幼い時に間違えて口に入れてしまってから苦手意識が」
「うわあ……」
「どちらかといえば甘いものの方が好きです」
「そういえばハルさん、甘い果物をよく食べているよね。他の食べ物にはあまり手をつけないのに」
「言われてみると、そうかもしれません。元々多く食べる体質ではないので、自然と好きなものを選んでいたようです」
「果物美味しいよねえ、僕は甘くて美味しい西瓜が大好きだよ」
「もう商品を勝手に食べるのはいけませんからね」
「ううっ、分かってるよぅ……」
「ねえハルさん」
「はい」
「ハルさんの好きなタイプは?」
「?? タイプというのは……」
「こういう人が好きだなあとか、素敵だなあって思う相手のことさ」
「……なるほど。ちなみにアラジンの好きなタイプは?」
「キレイなおねいさん! ハルさんは?」
「誠実な方は好ましいと感じます」
「誠実な人か〜、じゃあ、嫌いなタイプは?」
「……気の多い人は嫌いです」
「気の多い人って、どういう意味だい?」
「好きな人がたくさん居るってことです。アラジンは?」
「やさしくないおねいさん!」
「……(キレイでやさしくないおねいさんの場合は……?)」
「ねえハルさん」
「はい」
「好きな一日の過ごし方は?」
「鍛錬や遠乗りをすることがほとんどですが……寝台でごろごろすることも割と……ハッ、いいえ、なんでもありません。日々鍛錬、騎士であれば当然のことです」
「へえ〜、さすがだね!(途中聞こえなかったなあ)」
「ねえハルさん」
「はい」
「ハルさんは煌帝国の人と仲が悪いの?」
「個人の仲の良し悪しではなく……国同士の問題ですね」
「国同士の?」
「はい。煌帝国は東方で、レームは西方でその領土を広げている国同士。いずれ衝突することは明確です」
「……戦争ってこと?」
「そうです」
「……ハルさんは嫌じゃないの?」
「戦争を好んでいる訳ではありません」
「なら、止めようよ……」
「私にそのような権限はありません。なにより、戦うことでしか守れないものがある」
「……」
「そして、どうか忘れないでください。生まれながらに役割を持った人間がこの世には存在する。あなたもそうです」
「?」
「あなたはマギ。戦いから離れて生きていくことが許されない人間だ。世界にはそういう人間が多くいて……私もそうだった」
「……」
「あなたが戦わなければならない瞬間は必ずやってくる。私はそれが、少し恐ろしいのです」
「……どうして?」
「アラジンはレーム帝国の人間ではありませんから、あなたが私の敵になる可能性はゼロではありません」
「……ハルさんと戦うのは、嫌だなあ」
「……そうですね。私も、自国の者以外でここまで同じ時を過ごしたのは初めてですから……あなたが敵になることは、あまり想像したくありません」
「……ねえハルさん」
「……はい」
「ハルさんが迷宮を挑戦した時のことを教えておくれよ」
「……勿論。私が迷宮を攻略したのは数年程前のことです。私の婚約話が持ち上がっていて」
「え!? 婚約ってハルさんの!?」
「はい。ほとんど決定事項だと言われました。ですが、その準備をしている時に……」
「……」
「幼い頃にあった知人の魔道士に攫われて……」
「えっ?」
「気付いたら迷宮の中に放り込まれて」
「??」
「外に出るには攻略するしかありませんから、後についてきた魔道士の彼と迷宮を攻略したんです。無事に攻略したら、外の世界では半年程経過していて……」
「そ、そうなんだ」
「金属器を得たお陰で婚約話も消えましたし、久しぶりに知人と会えたので私は嬉しいこと尽くしでした」
「……ハルさん、結婚したくなかったんだね」