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事情の説明はリジルとシンドバッド、そしてドラコーンの三名のみで行われることになった。リジルの護衛である騎士も遠ざけられ、ジャーファルやミストラスも部屋の外に待機している。
フードを被ることなく部屋へ入ってきたドラコーンだったが、リジルが驚くことはなかった。恐れている様子もない。ただ観察するように、危険性の有無を確認するように視線を向けているだけだ。
シンドバッドとドラコーンは、騎士であるリジルに努めて誠実に真実を話した。幸い金属器や眷属の知識を持っていたリジルは、二人の説明を疑うこともなかった。
レームの隊商を襲ったのは食糧を得るためだったとドラコーンは正直に話した。町で顔を見られ子供を怖がらせてしまい人里に降りることはできないと思ったからだと。
積み荷の書物にシンドバッドの名があり、助けを求めるためにシンドリア商会へやってきたことも。すべて。
ただし自分の出身と、セレンディーネと従者二人のことは話さなかった。今、彼女は商会の一番奥にある部屋に隠されている。
リジルに見つかった後に待ち受ける扱いを想像し身を震わせながら。
セレンディーネはレームとの戦争で功績をあげている。
数えきれないほどのレーム軍人の命を奪ってきた。剣で、時に毒で。
レームの土地でパルテビアの皇女を匿う正当な理由を話せるものは、世界中を探しても見つからないだろう。
「……」
シンドバッドとドラコーンの説明にリジルはしばらく考えこむように視線を下げていた。
それから静かに口を開いた。ずいぶん落ち着いた声で、淡々と続けた。
「貴殿は女性三名と一緒にシンドリア商会に身を寄せたはずだ。彼女の素性は?」
リジルの問いに、シンドバッドの表情が強張る。
ドラコーンは僅かな動揺すら悟らせずに言った。
「この商会の従業員だ。道を案内させた」
「隊商を襲ったときは、一緒にいなかったと?」
「そうだ」
「……実は、こんな報告が私に入っている。その騎士は従騎士として数年前のパルテビアとの戦争に参加していたそうだ」
ドラコーンは頬を張られたような感覚に陥った。
泳がされていただけで、自分が最も恐れていたことはとっくに起きていたのだ。
自分の行いによって、姫様に迷惑をかけ、命の危険に晒している。
「彼が言うには、よく似ているそうなんだ。貴殿が道を案内させたという女性と、戦場で見た、パルテビアの皇女、セレンディーネ姫は」
ドラコーンは金色の瞳を揺らすことなくリジルを見る。
この会談のあと、自分にどんな処遇を言い渡されても受け入れる覚悟だった。
喜んで絞首台への階段を登ろう。
彼女が助かるのなら。
「人違いだろう」
リジルは目を丸めた。
この話が始まって以来初めて見せた。緊張感のない表情だった。
「顔のよく似た人間など、いくらでもいる。ただ、それだけの話だ」
淡々と言ってのけたドラコーンに、リジルは無表情のまま「そうか」と返した。それから言葉を探して、結局同じ言葉をもう一度つぶやいてから目を閉じて立ち上がる。
青磁の瞳が再びドラコーンに突き刺さった。
「貴殿は我が国の領土でレーム市民を害し、その財産を奪うという罪を犯した。レームでは極刑に値する重罪である」
リジルが告げた死刑判決にシンドバッドが凍り付く。
「人は窮地に立たされると本性が姿を現す。生きるためならどこまでも残虐になれるのが人だ」
「……」
「だが、被害にあった隊商には一人の死者も出ていない。それを、あなたが失わなかった慈悲の心による行いであると認め、主君への忠誠心と死を顧みない勇気に敬意を払い、隊商襲撃の罪は咎めないこととする」
「!!」
ドラコーンとシンドバッドの二人が言葉を発せないでいる部屋の外で、ヒナホホやジャーファルが騒ぐ声が聞こえた。話は終わったと言わんばかりに部屋を出ようとするリジルをドラコーンが呼び止める。
「咎めない、だと!?」
「そう。無罪放免、商人たちにはカルアデス家が補償金を出す」
「なぜだ!」
「あなたが気に入ったからかな、ドラグル殿。話せてよかったよ」
今度こそ硬直して動かなくなったドラコーンとシンドバッドを置きざりに、リジルが扉を開ける。
そこにはセレンディーネが立っていた。
ドラコーンが処刑されるかもしれないとサヘルに言われ、気付けば体が動いていた。
レーム帝国の皇子と、パルテビア帝国の皇女が見つめ合う。
かつて殺し合った敵同士、奪い合ってきた仇同士。
「―――確かに、よく似ている」
リジルは人当たりの良い笑顔で言ってのけたあと、セレンディーネの耳元に口元を近付け「その髪色はここじゃ目立つ。誰かに聞かれたら、染料で染めたと言えば誰も疑わない」と小声で続けた。
言葉を失うセレンディーネの様子など気にせず、リジルは横を通り過ぎていく。
ミストラスの横を通るときに「問題起こすなよ」と肩を叩いてから、リジルは待機していた騎士を連れてシンドリア商会を去っていった。
リジルの言ったとおり、その後ドラコーンが隊商襲撃の罪を問われることはなかった。