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アリババは東南の小国、バルバッドの貧民街で生まれた。しかしバルバッド王国の国王の血筋を継いでいたアリババは、生まれは貧しくとも高度な教育を受けた王族であった。王宮剣術でジャミルをいとも容易くのしたアリババは、一瞬だけ気を抜いて飛んでいったハルとアラジンに意識が逸れる。

その一瞬、本当に瞬きの間に。領主の命令を受けたモルジアナはアラジン達の元から目の前に飛んできた。

改めてその脚力に驚かされつつ、アリババは笑みを浮かべる。奴隷として酷使されてきたモルジアナならば、ジャミルを助けたりはしないはずだ、と。

見えない鎖によって雁字搦めにされているモルジアナに気付かず手を差し伸べたアリババは、モルジアナによって容赦なく壁に叩きつけられることになる。






モルジアナの蹴りを食らったハルは、柱に叩きつけられた直後に体を起こすことが出来ていた。腕の中のアラジンも衝撃を受けてはいるが怪我はない。

「ハルさん、大丈夫かい?」
「ええ、この鎧は特別なので。ファナリスの蹴りを受けても問題はありません。限界はありますが」

アラジンにかかった瓦礫の砂を払ったハルは、こちらに向かってきたモルジアナと対峙していた。その瞳は訓練を受けた猛獣のようで、迷子になった子供にも思える。

「まさかあなたまで、迷宮にいるなんて」
「……」
「抵抗しないでください。大人しくしていれば、領主様の機嫌を損ねなければ、悪いようには……」

モルジアナは自分で言っていて嫌になっていた。段々とうつむいていくその表情をハルはただ見つめている。ハルの生まれた国でも、奴隷は数多く存在した。ハルがその制度をどれだけ疎んでいようが、そんなことは関係ない。ハルに、モルジアナに対して何かを言う権利は存在しないのだ。同情も憐れみも、そんな感情を抱くこと自体が酷く傲慢で勝手なことだ。

―――ましてやそれを救ってやりたいなどと。考えるだけでも烏滸がましい。なぜなら奴隷制度を良しとして敷いている大国の王を、ハルは父と仰いでいるのだから。

領主に呼ばれたモルジアナが飛び去っていく。何も言えずにそれを見送ったハルの背に、アラジンは名を呼びかける。とても悲しそうな、苦しそうなハルの背を見て、アラジンは首を傾げることしかできなかった。