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ジャミルの命令で、モルジアナはアリババにトドメを刺そうと刃を翳した。本当は殺したくない。でも殺さなければ殺される。ムチでぶたれ、髪を引っ張られ、口の中に剣を突っ込まれる。今は無い筈の首の鎖を引かれた気がした。これまで培ってきたジャミルへの恐怖が、死への恐怖がモルジアナを急き立てた。やらなければ、今度は自分の番が来る。
振り下ろした刃はアリババの体に突き刺さる前に消えた。閃光と共に。
モルジアナとジャミルは驚き、言葉を失って光の元を見る。
そこにいたアラジンは石の杖を自分達に向けていた。
警戒して動かない二人の横をハルとアラジンが通り過ぎる。アリババの隣にしゃがみこんだハルは、ジャミルの蹴りを受けて弱っていたアリババの傷の具合を見た。骨は折れていないと確認してからアリババに手を貸して起き上がらせる。
顔を汚している血を丁寧にハルが拭うのを、アリババは静かに受け入れていた。その姿を見て、アラジンは立ち上がる。その周囲に白く小さな鳥のようなものが飛び交うのを、アリババは掠れる視界の中で確かに見た。
ハルは静かにアラジンの背中を見守る。魔法によってモルジアナを無力化させたアラジンはジャミルから笛を受け取った。その力を目の当たりにしたジャミルは戦意喪失した様子で、無防備に腕を広げる。
この時を十年待った。
チーシャンを栄えさせた優れた人間である自分を、王にしてほしい。期待に目を輝かせ、アラジンへの畏怖を胸に熱弁するジャミルを、アラジンは冷めた目で見て、告げた。
「僕は、おにいさんのこと、そんな大した人じゃないと思うよ」
アラジンの言葉を受けたジャミルは目を見開いて、意志を失ったように動かなくなった。ハルはアリババに肩を貸して立ち上がらせる。
ハルがアラジンの正体について思考していると、アラジンの持つ笛が光を放った。その光は一直線に宝物庫にある壺を指し示している。三人でゆっくりと壺に近付き、アラジンが恐る恐る指で触れると目を潰すような眩い光が宝物庫の中に溢れた。
その光はどんどん膨れ上がり、ついには宝物庫の天井をつき破る。まぶたを持ち上げてアリババ達が見たものは、迷宮の天井にも届きそうなほど大きな、青い巨人の姿だった。