月と海の眼と少年のこと


黄牙の村から陣営へと戻る途中で、白瑛は自軍の兵士達を見つけた。その筆頭に立つのは呂斎。自身の中にある疑惑が、本人と話したことで確定した。族長を襲わせたのはこの男だと。

白瑛は懐から羽扇を取り出す。魔力を込めると、羽扇に刻まれた八芒星が光を放ち、白瑛の周辺に風を巻き起こした。

「狂愛と混沌の精霊よ。汝と汝の眷属に命ず―――我が魔力を糧として、我が意志に大いなる力を与えよ!」

白瑛を中心に爆風が生み出され、呂斎の部下達が吹き飛ばされる。白瑛の周辺を吹いている不思議な風は、不気味に笑う女の姿を象っている。それを目撃して怯える部下を叱責して、呂斎は内心ほくそえんだ。

金属器使いたちの弱点を、呂斎はよく知っていた。

―――魔力不足

時間を稼いだ呂斎達は、二人の魔力が切れかかった時に伏兵を登場させた。驚愕に目を見開く白瑛と青舜に笑みが溢れて仕方がなかった。

金属器使い達は、己の金属器に貯めた魔力が尽きたら手も足も出なくなる。眷属も力を失い、矢を受けて倒れた。白瑛も捕らえられ、呂斎は怒りのままにその体を蹴り上げる。

白瑛を逆上させるべく呂斎は告げる。本国に居る弟もすぐに殺してやる。そう聞いた白瑛は頭に血が上るのが分かった。怒りのままに拘束を振り払い呂斎に斬りかかる。

どちらが将軍に相応しいか一騎打ちで決着を着けようと提案した呂斎に、白瑛は応じる。と同時に、肩と足に矢が突き刺さる。

「信じやがった! 馬鹿女、貴様はなぶり殺しだよ!!」

大口を開けて笑う呂斎の言葉に、白瑛は目を見開いて言葉を無くす。そして悔しさで目を閉じた。

止めを指すべく、上から押し掛かられて髪を鷲掴みにされる。呂斎が剣を振り上げているその後ろで、呂斎の部下達が次々と彼方へと吹き飛ばされていく。その様子を目にした白瑛や抑えていた部下が驚いて固まっていることに気付かずに、呂斎は叫んだ。

「ゴミくずのよーに、一撃でたたき潰してくれるわー!」

言い終わるやいなやその剣が振り下ろされるよりも先に、青い巨人の手のひらが呂斎を横払いにして吹き飛ばした。
ドーン、と。
ぷちっと虫を潰すようにやられた呂斎の陰謀は、あっさりと打ち砕かれたのだった。

ぽかんと口を開けてつっ立っていた呂斎の部下達も、鋼鉄の鎧騎士によって呆気なく倒され、その場に立っているのは白瑛とアラジン、ウーゴ、ハルの四名だけとなった。

白瑛は自分がまだ生きていることが信じられずに、気持ちを落ち着かせようと大地へと手を伸ばす。土の暖かさに少し平静を取り戻してから、その正体を問い質した。