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敷布の上にゆっくりとアラジンを寝かせたハルは、躊躇うことなく兜に手をかけた。モルジアナは正座をして佇まいを直すと、無自覚にハルへ熱い視線を送る。ハルは視線に気付き手を一瞬止めたが、すぐに動きを再開させ、初めてモルジアナの眼前にその姿を晒した。
温度のない鉄の鎧の下にあったのは、目鼻立ちのはっきりとした顔だった。黄金色の頭髪とミルクのような肌。二つの瞳は、暖かい草の色をしている。陽はとうに沈んでいるというのに、モルジアナはハルを見て眩しいと思った。
ハルは慣れた手付きで、纏っている鎧を外していく。金属の擦れる音や床に置いた時の小さな音だけが聞こえる。みるみるさらけ出されていくその中身に、モルジアナは言葉を飲み込んで目を瞬かせた。
ハルは布の上から見ても分かるほど、しなやかな体つきをしていた。細い首と丸い肩、ふくらんだ胸部によって浮いた布は腰紐で絞られている。何より鎧を取り払ったハルの体格は普段より一回りほど小さく見えた。
―――女性。
そう確信したモルジアナの胸中には驚きと、ほんの少しの「やっぱり」という納得があった。ハルの声は高く、素顔が見えていれば女性だと分かるだろうが、全身に鎧を纏って剣を振り回す姿だけでは気付けないだろう。ハルの普段出す、鋭く毅然とした声音では、声の高い青年と思われても仕方がない。
モルジアナはハルの穏やかな声色をよく聞いていた。だからこそ、男性らしい強さと女性らしい優しい声が混ざり、ハルの性別を断定することが出来なかったのだ。
最後の装備を脱ぎ、纏めた髪をほどいて軽く指で梳かしたハルは、俯きがちだった瞳をようやくモルジアナへと向けた。少しだけ癖ついた髪がふわりとハルの肌を滑り落ちる。モルジアナはそれに目を奪われながら、これまで分かりづらかったハルの匂いに気付いた。
深い森の中で感じる、爽やかな緑の匂い。
強い鉄の匂いでこれまで気付けなかったその優しい匂いに、モルジアナは好奇心で消えていた眠気が湧き出てくるのが分かった。モルジアナのキリッとした瞳が少しだけ緩み、視線が下がる。
「ふふ」
正面から聞こえた空気を揺らす小さな音に、モルジアナはハッとして顔を上げる。ハルは白い肌を少しだけ桃色に染め、優しく微笑んでモルジアナを見ていた。上品に口元を隠している手は、剣を振り回しているとは思えないほど女性らしさに溢れている。恥ずかしさと様々な感情が混ざり、モルジアナはつられるように頬を染めた。
「モルジアナはもう知っているようですが、私は騎士なのでこうして鎧を着ています。人前で兜を脱がないのはあまり素顔を見られたくないからです」
「……」
「その事情を詳しく話すことはできませんが―――。男として振舞う方がなにかと都合が良いので、あなたにも話を合わせていただけると助かります。女子供だけでは問題も多く、なにより絡まれやすくなりますから」
「分かりました」
「ありがとう。それじゃあ、今日はもう休みましょう。なにか聞きたいことがあれば、明日にでも」
濁りの無い美しい瞳をまっすぐ見返して、モルジアナは「はい」と頷いた。ハルは終始穏やかな表情をしていた。
―――もしかしたらこの人はいつも、こんな優しい表情をしていたのかもしれない。
三人だけの小さめのテントの中で、ハルが灯りを消す。モルジアナはアラジンの隣にそっと体を横たえ、指を組んで天井を見上げた。最小限の身じろぎの音でハルがモルジアナの隣に移動する。櫛で髪を梳かすハルの後ろ姿をモルジアナはしばらく見ていたが、あまりじろじろ見ては失礼だと自分を叱ってから目を閉じて眠りについた。