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騒がしい宴が終わり辺りは静寂に包まれている。片付けを終えてそれぞれに与えられたテントに向かう途中、モルジアナははしゃぎ過ぎて眠ってしまったアラジンを背負うハルの横顔を見上げて言った。

「その、ハルさんは、鎧を脱がないんですか?」

ハルは歩みを止めることなく顔をモルジアナへ向ける。宴の最中も演奏している時も、ハルは面頬を下げるだけで顔は見せなかった。堅牢すぎるその鉄壁の鎧姿に、商人達が気楽にしていいと何度言っても、首を縦に振らなかった。

モルジアナから言葉をかけられたハルは半年前のことを思い出しつつ「そういえば、モルジアナには見せたことがなかったな」と呟くように言うと、暫く考え込むように黙り込んだ。彼女はレームの人間ではないのだから問題ないだろう。黄牙の村で考えたことと同じ思考になってから、ハルは口を開く。

「同じテントですから、後ほどお見せします」

モルジアナはハルの言葉にハッと顔を強ばらせ立ち止まると、あたふたと手を胸の高さまで上げる。自分の発言で気を悪くしたのではないかと不安そうにするモルジアナを見て、ハルも同じように足を止めて安心させるように穏やかな声で続けた。

「たとえ僅かな時だとしても、これから私達は行動を共にするのです。顔の知れない人間など、信じようにも信じられぬものでしょう」
「いえ……あなたのことは、信用しています。チーシャンで私を助けてくれた。馬に乗せて逃がそうとしてくれた。それだけじゃない。―――故郷へ行く手助けまで、私はあなたのご友人を傷付けたのに」
「……」
「恩を仇で返すような真似をして、本当に申し訳ありませんでした」

頭を下げるだけでは足りず、地面に膝と手をつき深々と土下座をし始めたモルジアナに、ハルが珍しく狼狽したように体を揺らした。「う〜ん」と唸るアラジンの声で冷静さを取り戻すと、ハルはゆっくりとその場にしゃがみこんだ。

「モルジアナ、どうか顔をあげてください」
「でも」
「私はあなたに対して、怒りや憎しみという感情を向けたことなど一度もありません」
「……」
「こうして再び顔を合わせられたこと、本当に嬉しいです」

ハルの弾んだ声音に、モルジアナは恐る恐る顔を上げる。

「私も、嬉しいです。あなたに会いたかった。直接会ってお礼を言いたくて……レームに行けばあなたに会えるのだろうかと考えたりしていました」
「レームへ?」
「はい。ハルさんがくれたあのブローチは、レーム騎士の偉い方が所有する身分証だと言われて、あなたもそうなのだろうと思ったので」
「確かに、あれは隊長格が与えられるものですが……」

半年前のモルジアナは持っていなかった知識だ。それも騎士と隊長の見分け方なんて、レーム騎士以外で知っている人間は少ないだろう。あれは港や騎士が利用する国内施設でしか使用しないのだから。知っているとすれば騎士に近しいものか、それを売り捌く側の人間か。ハルの脳裏には数刻前に伸した盗賊達が思い浮かんでいた。

「―――さあ、立って。今日は早く休むことにしましょう。ゆっくり体を休めてください」
「いえ、まだお礼を言えていません。私、本当に感謝しているんです。アラジンと、アリババさんと、あなたに。私が差し上げられるものなんて何もないし、どうすれば……」
「物なんて要りません。きっと、アラジンやアリババもそう言うと思いますよ」

手を引かれて立ち上がったものの、俯いたままのモルジアナにかけられたハルの言葉に、「えっ」という小さな声が溢れる。ハルはアラジンをそっと背負い直してから向き直り言った。

「私は見返りを求めてあなたに手を貸したわけではありません」
「……」
「ですが、それでは気がすまないと言うのであれば、一言でいいんです。『ありがとう』という言葉だけで、充分ですから」

ハルの言葉にモルジアナは目を大きく見開く。それから手を揃え、ハルをまっすぐ見上げて言った。

「ハルさん。私を助けてくれて、本当にありがとうございました」

言い終えて深々と頭を下げたモルジアナを見ていたハルは、兜の下で力を抜いたように表情を和らげる。充分すぎるぐらいの報酬だと和ませるように言うと、今度こそテントへと向かうのだった。