にせの春を埋める
移動途中の商人と話していたハルに声をかけたのは、昨日の夜に会ったきりのサアサだった。その奥にはサアサの父の姿もある。この町に長居したつもりは無かったが、いつの間にかサアサ達の隊商もたどり着いていたようだった。
今朝振りに見た男の顔が疲れきっているのを見て、ハルは首を傾げる。ライラとサアサの目元が赤く腫れているのを見て何かが起こったことは容易に想像ができたが、ハルは口を噤んだ。
サアサはハルに頼みたいことがある、と言って口を開いた。ライラが引っ張るようにして連れてきたのは、昨日市場で騒ぎを起こした青髪の少年だった。内容を問うたハルに、サアサは少年の目的もハルと同じ探し物だということを教えた。
奇妙な力を持ってはいるものの、子供ひとりの旅路は不安だ。ハルが一緒ならば心強いと言った。奇妙な力、という言葉に疑問を抱きつつハルは少年を見下ろす。少年は首を傾げてハルの腰のあたりを凝視していた。
正確には剣を。
「勝手なことを言ってごめんなさい、だけどどうしても気になってしまって」
「子供がひとりで旅を?」
「そうなの。友達の為に金属器を探しているらしくて」
「―――金属器」
鎧の下から鋭い視線を向けられているにも関わらず、少年は大きな目をじっとハルに向けている。サアサの期待の眼差しを受けて、ハルは気付かれないようにため息を吐いてから頷いた。了承したハルに、サアサは隊商長からアラジンへ渡すよう言われていた金貨をハルに手渡す。暫くは二人でも問題なく旅を続けられる程の金貨にハルは戸惑った。何故少年へのお金を自分に渡すのか。手の平に乗せられたまま動かないハルに、サアサは「あなたなら信頼できるもの」と花のように微笑んだ。
何も言えなくなったハルは気を取り直して少年へと向き直る。同時に少年の目線が上がり、ハルの顔の部分に向けられた。
「はじめまして、僕はアラジン」
「私はハル、これからあなたの旅に同行します」
「うん、よろしくね」
すっと伸ばされた小さな手を見下ろして、ハルは一瞬で様々なことを思考する。それから白い手を優しく包み、「こちらこそ、アラジン」と返した。