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霧の団の本当のリーダー、カシム。アリババとカシムは昔からの友人だった。共にバルバッドのスラムで生まれ育ち、ゴミ溜めの町を毎日一緒に走り回っていた。

カシムの父親が消え、残されたカシムと妹のマリアムはアリババの母に引き取られた。それ以降、カシムは盗みをやめておとなしくなったが、アリババの母が亡くなると再び盗みを働くようになったという。

「カシムは生活を守るのに必死だったのかもしれない」

アリババが「手伝う」と言っても「そんなことする必要はない」と突っぱねられた。カシムは体に流れている血をいつも気にしていた。アリババには、彼の母親と同じようにまっとうに生きてほしいと言うカシムの言葉に、アリババは何も言えなかった。

―――なあ……俺ら友達だよな……
―――おう! あったりまえだろ!?

「あの日のカシムは少しおかしかった。今でも覚えてる」

その数日後、スラムを訪ねたのはバルバッドの国王だった。国王はアリババを見つけると、アリババが自分の息子であることを語った。これからは王宮で暮らすことになるということも。

話を聞いたアラジン達三人の顔が驚愕に染まる。

アリババの母親は王宮に仕える下女で、王のお手つきとなりアリババが生まれたのだ。それを教えられたアリババは、国王が王宮へ戻ってすぐにカシムへと相談した。引き止めてくれると期待したが、カシムの口から出たのは、アリババが求めていた言葉ではなかった。

「お前と俺は、生まれながらにして違う人間なんだ! とっととどこへでも行っちまえ!」

感情のままにカシムを殴り、スラムを後にしたアリババの生活は一変した。バルバッドの王子としての教育が待っていたのだ。スラム出身の子供に向けられる視線は鋭く冷たいものばかりだった。

「俺は孤独だったよ」

厳しい訓練にも耐え、努力していくうちに周囲の目は変わっていった。三年程経ち、スラムでの日々が遠い過去になった頃、アリババは王宮を抜け出してスラムへと向かった。

「でも、そこには何もなかった」

ゴミ溜めの町はいつのまにか綺麗に整備され面影すらなかった。スラムの住人はどこにも居なかった。アリババが王宮へ帰ろうと踵を返すと、見覚えのある人物がそこに立っていた。

「なんであの時、カシムに会っちまったんだろう。あの時……俺が王宮を抜け出さなければ……あの時カシムに会わなければ……あの事件は起こらなかったんだ……」
「あの事件……?」

三年ぶりに会ったカシムは一瞬暗い目をしたが、すぐに笑みを浮かべてアリババとの再会を喜んだ。話すのが楽しく、懐かしく、アリババはカシムの進められるままに飲みへと向かった。カシムの口から聞かされたのは、スラムは無くなり、住人は別の居住区で生活しているということだった。

アリババは始めて飲む酒に酔い、話すべきではないことまで口にした。アリババが王宮を出る際に利用した王宮の壁の「トンネル」のことを。詳しい場所までは言わなかったが、王宮に戻る際に、アリババは後をつけられていた。
簡単に王宮に侵入出来る手段を、カシムに教えてしまっていたのだ。

「バカだよな〜……俺」
「アリババくん……」

この数年でバルバッドは煌帝国に経済に介入されていた。国王が病床に伏せ権限は長男のアブマドに移っていたが、その頃には煌帝国の使者が政治にまで口を出していたという。

「アブマドは怠け者だから、面倒くさがってそいつのいいなりになる始末だ」

国王はアリババに国を任せたいと言ったが、アリババはそれを断った。兄達を押しのけて王になれば国が乱れると分かっていたからだ。

父は母を愛していた。その事実だけで、アリババはどんな苦難も乗り越えられると思った。

事件が起きたのはその夜。寝付けずに王宮の裏に出たアリババが見たものは、親友のカシムの姿だった。カシムのあとに続いて盗賊グループのスラムの人間が王宮へと入ってくる。

「俺は一歩も動けなかった。カシムが捕まるのもいや、王宮が襲われるのもいや。何一つ選べない、俺は卑怯で臆病なヤツだ……」

アリババは盗賊に頭を殴られて気絶し、目を覚ますと自室に居た。下女から国王が亡くなったことを教えられたアリババは、自分のせいで王の死期を早めたのだと責任を感じ、逃げるようにバルバッドを飛び出したのだという。

「それから俺はオアシス都市群で日銭を稼いで暮らした。そして、アラジン、ハル。お前らに出会ったんだ」