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アリババの口から語られた過去の話に、アラジンとハルが閉口する。モルジアナは「分からないことがあります」と口を開き、自分を裏切ったカシムの霧の団に、アリババが入った理由を問いかけた。
アリババはゆっくりと答える。迷宮を攻略した後、けじめをつけるためにバルバッドへ帰ったこと。アラジンとの約束のため、新しい一歩を踏み出す前に王宮へ帰り、事件の真相を話すために。
そして荒れ果てたバルバッドの様子に言葉を失ったこと。王国と衝突している霧の団という組織のことを。
カシムとケジメをつけるために会いに行き、本人から聞かされたのは、バルバッド王国がスラムの住民に対して行った許されざる仕打ちの数々だった。居住区の制限。人と物の出入りの制限。住民の活動制限。
アリババがスラムを出た次の年には病が流行り、国は対策をするどころか病が広がるのを恐れ街に閉じ込めたという。医者も薬も与えられず、多くの住民が命を落とした。カシムの妹も。
カシムは妹を失い、決意した。どんな手を使ってでもスラムの住人を救わなければならないと。そのために力が必要だった。国庫を襲い力をつけ、部下を集め武器を集め、今では国軍と戦えるまで力をつけた。
「王子の俺がリーダーになれば、霧の団は賊軍じゃなくなる。それで俺は霧の団に入ったんだ」
「……」
「カシムと話して分かったんだ。あんな事件があったけど、カシムはやっぱり俺の家族で友達なんだ。そのカシムがあんなに困ってるんだ! アイツのために俺も戦いたいと思った!」
アリババが叫ぶように続ける。盗んだ物資を市民に分け与えることで支持を得、霧の団はただの反逆者ではなくなる。時期を見計らい身分を明かし、国王と話をつけにいくのだと。
アラジンは冷静にその話を聞いて、黄牙の一族を思い出していた。一族の誇りのために戦うことを選択した人間。憎しみや怒りに囚われ、戦うことに取り憑かれたように突き進む背を。
「話を聞く限り、アブマド王はスラム出身のあなたを毛嫌いしている。謁見すら叶わない可能性もありますが。その場合は力づくで、王に要求を呑ませるのですか」
「それは……」
「あのね……アリババくんが……大切な友達のためを想う気持ちは、とてもよくわかるんだ。でも、怒りに任せて戦ってしまうと、悲しいことが起こる気がするんだ」
ハルとアラジンの言葉に、追い詰められたようにアリババの顔が青褪める。しょうがないだろう、と呟くその声は低く、震えていた。
「この国は今ヒデーんだよ! 誰かがやらなきゃダメなんだ!! みんな苦しんでるのを放ってなんかおけねー! だから国と戦う覚悟を決めたところだったのに……」
「……アリババくん」
「でもっ……確かにお前らの言うのももっともだってわかってる! 俺達が戦うことで難民だって出てる! 国軍や貴族どもといえど、人を傷つけちまってる!」
感情の高ぶりで憔悴した顔を赤くしてアリババが叫ぶ。モルジアナが気圧されるように表情を曇らせる横で、アラジンはまっすぐアリババの言葉を受け止めていた。
「もう……ワケわかんねーよ!? こんな情けねー俺は……だから今、お前らに会いたくなかったのに……」
頭を抱え、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜるアリババが抑えきれずに涙を零す。この国に帰ってきてから蓄積され続けていた感情が溢れ出す。
「もう……もう出てってくれよ! この国から出てってくれよ!!」
アリババが言い終えた瞬間に、アラジンの杖の先がアリババの頭部へと振り下ろされる。ゴッと鈍い音を出して自身に与えられた痛みにアリババが吠える。
「落ち着いてください」
「……」
「君は大変なことを考えすぎて、頭がゴチャゴチャになっているんだ。確かにこの国の問題は僕らにはとても難しい……でも、大丈夫だよ」
立ち上がったアラジンがアリババに歩み寄る。その肩を掴むと、意志の強い眼差しで言った。
「僕たちも、君と一緒に考えるから!」