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力を使いすぎたアラジンが動けなくなることは、「第7迷宮」でアリババとハルが目撃していた。けれど、今回のアラジンはそれとは比べ物にならないほど衰弱している。
アラジンは魔力を使いすぎた。マギは周囲の魔力を無限に使えるが、それは体力があるときに限られる。体力が尽きた後も、アラジンはウーゴのために自分の内の魔力を与え続けていた。
魔力を与えるのは命を削るということ。
魔力が尽きれば、マギといえど命を落とす。
シンドバッドの言葉に全員が息を呑む。
例えその事実を知っていたとしても、アラジンは魔力を与えていただろう。
「それだけ、アラジンにとっては大事だったんだ……」
金属器を手にシンドバッドの胸中に疑問が浮かぶ。自分が言った通り、ジンはあの程度の攻撃で死ぬことはない。
―――しかし、笛に八芒星は戻っていない……。
怪我をしていない団員たちが自然と広場へ集まる。王との会談は失敗。突如現れた煌帝国の姫。仲間たちを襲った怪物たち。これからどうするのか、不安に駆られる人々の不安は、頭領であるアリババへとぶつけられる。
「アリババのお頭! 俺たちはこれからどうすりゃいい!?」
「霧の団は、スラムはどうなっちまうんだ!?」
団員に詰め寄られたアリババが歯を食いしばる。今後の展望など、今のアリババには何も見えていなかった。だんだんと俯いていくその姿を見たシンドバッドが代わりに声を張り上げる。
「大丈夫だ、落ち着け!」
驚いたようにアリババが振り返る。シンドバッドの表情に焦りはなく毅然とした態度で続けた。
「何があっても、なんとかすると言っただろう!」
シンドリアからの応援も駆け付ける。いざという時に動けるように態勢を立て直すことが今、できることだ。その言葉が団員の不安を全て消し飛ばすわけではない。
―――それでも、皆が顔をあげて次に備えた行動へ移った。「怪我人の手当の続き」を、そう言って駆け出す背中にアリババは拳を握る。
自分はなんて、情けない男なのだろうか。役に立たないうえに、仲間の不安を取り除いてやることもしてやれない。
(カシムだったら……もっと上手くみんなをまとめられただろうに……)
(そうだ、カシム。お前、どこ行っちまったんだよ?)
「お頭……! お頭!」
再び自分を呼ぶ声に、アリババは顔を上げる。正面にはかなり焦った様子の部下が立っていた。先ほど広場に集まっていた団員の中には居なかった男で、おそらく中で治療をしていたのだろう。かなり焦った様子の男に、アリババは「どうした」と問いかける。
「兄貴の様子がおかしい!」
怪我はしていない。頭をぶつけたわけでもない。
だが起き上がれずに呻き声をあげ続けている。
そう続けられた言葉に、アリババの顔が曇っていく。
話をしながら部屋へと向かっていると、同じように部下が集まってきた。
「お頭、同じ症状の奴らがほかにも……」
「はあ!?」
「ずっと頭を抱えて苦しそうにしてる……俺たちの声が聞こえてねぇんだ」
アリババが部下に連れられ、同じ症状の人間が集められた部屋へと辿り着く。寝具の上に寝かされた男たちに外傷はなさそうだ。ただ、全員が同じように頭を抱え大きな体を丸めて震えている。
その異様な光景にアリババは言葉を失う。
医者でもないアリババには対処法も分からない。
アリババが無力さに打ちひしがれる中、苦しむ部下の一人が手を空中に彷徨わせた。
咄嗟に、無意識のうちにアリババはその手を強く握っていた。続けて、男の名前を呼ぶ。聞こえていないと言われても、そうすることしか出来なかった。
すうっと力が抜けたように、手を掴んだ男の表情が和らいでいく。それを見た他の団員たちも、それぞれの家族や友人の手を掴み、名前を呼び続けた。しばらく続けていると、一人、また一人と男たちは目を開けていった。顔色は真っ青で、震える手を意地で押さえ込もうとしている。明らかに様子がおかしかった。一番症状の軽い部下の肩を掴み、問いただす。
「どうした、何があった?」
アリババの質問に、男は答える。目は虚ろで首は深くうなだれている。
「青い巨人に吹き飛ばされた後、あ、頭の中を、ぐちゃぐちゃに、されたみてぇに、突然」
「!!」
男の言葉に、アリババは目を見開いた。
―――体の中をぐちゃぐちゃに掻き回されたような感覚を、自分も体験したばかりではなかったか。
再び震え始めた男をゆっくりと寝かせ、アリババは脳を働かせる。
(ハルの剣、)
おもむろに立ち上がったアリババを、部下たちが見上げる。
ここで待っててくれ、そう言って扉へと向かった。
一瞬だけ目にした、ハルの剣。普段振るわれる赤い剣とは異なる形をしていた。
黒い刀身と、表面を奔る赤い模様。
思い出そうとするだけで、言葉に出来ない不快感が胸を支配する。
(―――あの剣が原因なら)
剣の造形を頭から振り払うように、ハルのことを思い浮かべる。
(ハルなら、なんとかできるんじゃ)
「―――アリババ?」
部屋を出た直後に、華奢な体と衝突する。揺れる金糸と見慣れた草色の瞳に、アリババは荒くなっていた呼吸を落ち着かせるために深い息を吐いた。