01
西暦2205年。
歴史の改変を目論む「歴史修正主義者」によって、過去への攻撃が始まった。時の政府は、それを阻止するため、「審神者」なる者を各時代へと送り出す。
審神者なる者とは、眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる、技を持つ者。
その技によって生み出された付喪神「刀剣男士」と共に歴史を守るため、審神者なる者は過去に飛ぶ―――。
「あなた様には審神者となり、歴史修正を目論む遡行軍を阻止していただきます」
目を覚ましたその時から、私にはそれまでの記憶が一切無かった。
私は一体誰なのか。
ここはどこなのか。
どうしてここにいるのか。
普通ならばそれが一番に浮かぶ質問なのだろうけれど、まず初めに浮かんだ疑問はこれだ。
はたして狐は喋る生き物だっただろうか。
「はじめまして、私はこんのすけと申します。案内人を務めさせて頂きますので、以後お見知りおきを」
こんのすけと名乗る狐に案内され、ある一室につれていかれる。どうやってここまで来たのかさえ、今の私には思い出すこともできない。室内は天井も壁も床も真っ白で、異質な空間だった。
「最初の刀剣男士を選択してください」
いつの間にか肩に乗っていたこんのすけに促され、白い台に乗せられた刀を見比べる。
台の上には五本、鞘や柄の異なる刀剣が並べられていた。
審美眼なんて無い自分ではどれがいいのかまったく分からないし、そもそもなぜ刀を選ばなければいけないのか。
「そこう軍」を阻止と言っていたけれど、もしかしてわたしが刀を振り回して戦わなければならないのだろうか。刀なんて振るうどころか見るのも初めてだというのに、なぜ私が? そもそも私はいったいどこの誰だというのか。名前も思い出せない状況だというのに、理解が追い付いていないのか自分がいま不安なのかさえ判断ができないでいる。
「主さま? いかがなされましたか?」
首元でもぞもぞとこんのすけが身じろぐ。くすぐったさに堪えてからなんでもないと答える。よくわからないから適当でいいか、と最初に目に止まった刀剣に手を伸ばす。両手で持ち上げると、見た目よりもずっしりとした重さを手のひらに感じた。それを見たこんのすけが「ほうほう!」と声を上げる。
「では主さま! 神気を注ぎ顕現なさるのです!!」
ごめんもう私頭ぱんぱんで破裂しそう。神気、顕現? なんだそれ。刀を両手で持ち、こんのすけに言われた通り目を閉じる。
神気を注ぐというのがいまいちよくわからないと伝える。「気合です気合!」と言われた。なんでそんな精神論なんだ……。
刀を握る手に力を込め、集中する。とりあえず力を注ぐ様子を想像していろいろ試すこと数十秒、頬に小さく柔らかい何かが掠った。思わず目を開けて視界に入ったそれが、桜の花びらだと認識する暇もなく、吹雪のように全身を包む。
自分の手元も見えない状態で刀が勝手に手から離れていく。落としたわけではなく、前方から取り上げられたように感じた。
桜吹雪に目を瞬かせる私の肩で、こんのすけが「あるじ様! 神気を注ぎすぎです!」と怒鳴っていた。加減なんてわかるか。
だんだんと少なくなっていく花びらの隙間から目の前に人が立っていることに気付いた。いつの間に……。その人物は、大きな白い布を頭から被っている。
「だ、だれ……?」
私の言葉に、白い布の男の人はゆっくりと口を開いた。
「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
「?」
そう言うと男の人は視線を逸した。
やまんばぎり、名前? 写し? なに?
―――というか今、突然現れた? 一体どこから?
疑問がぽんぽんと浮かんでいき、思わず肩に乗るこんのすけに顔を向ける。
「この人、手品師かなにか?」
その言葉にこんのすけがため息を吐き、私と男性の間に飛び降りる。ため息を吐きたいのはこっちなんだけど……。
「一からご説明する前に、本丸へとご案内します」
「ほん、まる?」
「はい。これからあなた方が生活するところです」
突然ですが、対面してから数分しか経っていない男性と同居することになりました。
喋る狐といい、突然発生した桜といい、急に現れた男の人といい。
―――これはなにかの夢なのだろうか。
きっと夢だ。夢であってくれ。