七夕
登場する男士
山姥切国広、薬研藤四郎、鯰尾藤四郎、御手杵
▲ ▽
御手杵が大きな笹を持って本丸を闊歩していた。その後ろに鯰尾が続いている。国広と二人で顔を見合わせていると、私達に気付いた御手杵がのんびりとこちらへ近付いてきた。
「なにをしているんだ」
「七夕の準備ですよ!」
「……その笹は?」
「これか? 裏山で刈ってきた」
そういえば、明日は七夕か。
……だから御手杵のジャージが少し汚れているのか、と手を打っていると、鯰尾から「はい! 主と山姥切さんも!」と言って長方形の紙を渡された。私はピンク色、国広はオレンジ色だ。鯰尾の手には色とりどりの紙束があり、笹にはまだなにも括られていない。
「笹は玄関に飾っておくので、お願い事が書けたら吊るしてくださいね!」
「分かった。ありがとう。鯰尾、御手杵」
にぱーっと笑った鯰尾と、おー、と間延びした返事をして御手杵が並んで廊下を進んでいく。なんとなく横を見ると、国広は何も書かれていない紙をじっと見下ろしていた。
本丸内のあちこちでは、短冊に書くお願いごとをどうするかでみんな盛り上がっていた。食事の時に周囲に座った刀に聞いてみたけれど、粟田口の子たちのほとんどは「一期一振」に会いたい、と書くらしい。食事を終え、自室でまっさらな短冊をぼうっと眺めていると、薬研がやってきた。その手にはお盆に乗せられたお茶が乗っている。
お礼を言ってから受け取り、そういえば、と訊ねた。薬研のお願いごとは……。
「兄弟が寂しがってるからな、俺もいち兄のことを書いたぜ」
「……お迎えできなくてごめんね」
「なんで大将が謝るんだよ」
笑声を零す薬研に、肩の力を抜く。本丸に居る刀のほとんどは、会いたいと願う相手がいた。そのほとんどを、私はまだ喚ぶことができていない。
「そういう大将はまだ決まってないみたいだな」
「思い浮かばなくて」
「食いたいもんでも書いておけば、それを見た燭台切や歌仙が作ってくれるかもしれんぞ」
「ふっ、それいいね」
しばらく二人で会話をしてから、部屋へ戻る薬研の背を見送る。机に向き合ってペンを握っても願い事を書くことはできず、私は白紙の短冊とペンを手に部屋を出た。
「あ」
誰もいないだろうと思っていた笹の飾り場所には国広がいた。突然やってきた私と手元の紙を見た国広が「あんたも短冊をくくりに来たのか」と口を開く。
「ううん。まだ書けてなくて。みんなは何を書いたのかなって」
「そうか」
「国広はもう書いたの?」
「……」
やけに長く続く沈黙に、私も閉口する。不自然な程逸らされている視線に(もしかして)と笹に顔を向けた。私以外の皆は括り終えているのか、笹にはたくさんの色とりどりの短冊が吊るされている。
(国広のは確かオレンジ色の……)
「おい、なにを探してるんだ」
「国広が書いた短冊」
「……もうくくりつけたとは言っていない」
「内容、言いたくないの?」
「……」
そこまで嫌がられたら無理に聞き出すのも憚られるな……。
自分の視線の高さにある短冊には「肉が食いたい」「主にもっと可愛いと思って貰えますように」「主さんと買い物に行きたい」「主命がもっと増えますように」などと書かれている。
私に関係するお願いごとが多いな。嬉しいやら恥ずかしいやら……。それはさておき長谷部は休むことを覚えて欲しい。
みんなが会いたがっている刀が来てくれますように、という願い事も考えたけれど。やっぱり、私の一番のお願いはこれかな。
壁に紙を押し当ててスラスラとペンを走らせる。最後に名前を書くところで一度止まって、ゆっくりと「審神者」とだけ書いた。
「……書けたのか」
「うん」
「貸せ。上にくくってやる」
「いいよ。改めて見られるの、恥ずかしいし」
「どの口が……」
笹の空いた部分に自分の短冊をくくりつける。落ちないだろうかと少し引っ張って試す私の肩に、国広の体がぶつかった。
顔を上に向けると、国広は腕を伸ばして笹の上部に短冊をくくりつけていた。その真剣な表情に、国広のお願いごとはなんだったんだろうと首を傾げる。……でも、隠したがっていたし、盗み見るのはやめておこう。
「そら、行くぞ。部屋まで送る」
「ありがとう」
白い布を風で翻して歩く国広の後を追う。
一年に一度だけ、天の川を越えて会える織姫と彦星の物語。
明日は晴れるといいですね、と笑った堀川の言葉を思い出した。
「みんなが無事に、本丸へ帰ってきてくれますように 審神者」
「主が健康でありますように 山姥切国広」