03


こんのすけに連れられ辿りついたのは手入れ部屋の隣。
壁の室名札には鍛刀部屋と書かれている。

恐る恐る戸を開けると、手入れ部屋の妖精に似た小さな人がにこにことこちらを見上げていた。
国広が倉庫から運んできた資材を見て「今回はこの資材の量で作成してみましょう」とこんのすけが口にする。その言葉を聞いた妖精が国広から資材を受け取り、奥の部屋へ移動するその背を黙って見送る。

本来なら刀が完成されるまで時間を置かなければいけないらしいが、手伝い札というものを消費すれば一瞬で出来上がるらしい。
どういう原理なんだろうか。
今回はチュートリアルなので、と言ったこんのすけが手伝い札を持って部屋の奥へと消える。


国広と顔を見合わせていると、すぐにこんのすけと妖精が出てきた。
妖精の手には短刀が握られている。
「本当に一瞬だ」ぼそっと呟いた私の言葉を聞いたこんのすけがにっと笑い「さあ顕現を!」と高らかに言った。





短刀を手の上に乗せ、目を瞑る。

国広の時は神気を注ぎすぎだと言われたから抑え気味に。意識しつつ力を込めると刀が手を離れていった。ゆっくりと目を開けると桜の花びらがひらひらと降る中心に短刀を握る小さな男の子が立っている。

その子の伏せた目の横には紅が引かれていた。ゆっくりと開かれた瞼から見えた瞳は真っ赤だ。

「ぼくは今剣、よしつねこうのまもりがたななんですよ!」

嬉しそうな顔で話す今剣は一層笑みを深くして「どうだ、すごいでしょう!」と腰に手を当て胸を張った。
よしつねこう、って誰だろうか。

「初めまして、今剣。私はここの本丸の審神者、名前は無いから好きに呼んで?こっちは……」
「山姥切国広だ」

国広って呼んであげてね、と言うと今剣は満面の笑みではい!と返事をした。元気があって明るい子のようだ。

にこにこと笑ったまま見つめ合う私と今剣の間にとっ、とこんのすけが降り立つ。

「続いては刀剣に装備させる兵士を作成しましょう」

次は刀装部屋です、行きましょう!と元気に叫んだこんのすけが部屋を出て行く。

後を追おうと足を踏み出すとふいに手を掴まれる。振り返るとどことなく緊張した顔の今剣がそこには居た。

どうしたの?と屈みつつ聞けば照れたように「あるじさま、てをつないでもいいですか?」と言われた。
その言葉に何故か、ほっと救われたような気分になり「勿論」と手を握り返す。

途端に花が咲いたような笑顔になる今剣を見て、つられたように笑みがこぼれた。

「国広もどう?」

今剣と繋いだ手とは反対の手を差し出すと、少し驚いたような顔をしてから俯いて「遠慮しておく」と言った。

今剣と顔を見合わせ「てれやなんですかね」「そうかもね」と話していると、怒ったような声音でこんのすけが部屋に入ってくる。

「どうして誰もついてきていないんですか!!」

前足で床をばしばしと叩くこんのすけを見て、三人で口を揃えて小さく謝った。



少し不機嫌そうなこんのすけの後を追い長い廊下を歩いていく。

途中通り過ぎた部屋を簡単に説明するこんのすけの声に耳を傾ける。室名札がかかってない部屋は刀剣たちの寝室らしい。刀装部屋はどこなのかと国広が聞くと、手入れ部屋の隣だと返答が返ってくる。話しを聞いて分かったが、刀装を作るのは審神者ではなく、刀剣らしい。

途中で見つけた広間を駆け回る今剣と、それを捕まえようと追いかける国広を遠目にこんのすけに尋ねる。

審神者が刀装を作ったらどうなるのか、と聞けば失敗してしまいますと一蹴されてしまった。

刀装がどういったものか想像もできないけれど、どうやって作るのかは気になる。兵士を集めて鍛えるのだろうか。・・・・・・広告とか出すのか?




「どうやればいいんだ」
「気合を込めてやるのです」
「それがよくわからないんだが……」

透明の丸い玉を手に国広が困ったように俯き、顔が見えなくなってしまう。大丈夫かあの二人。いや、一本と一匹。

刀装部屋があるのは、さっき国広が資材を持ってきた倉庫の反対側のようだった。倉庫に入ると奥に扉が見え、開けると見覚えのある鍛刀部屋があった。なるほど、これは便利な構造だと部屋中を見ていると、こんのすけの「もっとこう!ぐわっっとやるのです!」と騒ぐ声が聞こえ、倉庫を出る。

扉を閉めた私を、透明の玉を持った国広が縋るようにこっちを見てくる。
どっかで見たことあるこの光景、と思い出せば初めて刀を顕現するときの私とこんのすけだった。

「私が刀を顕現するときは体中を流れる血を触れているところから注ぐってイメージでやったな」
「血を注ぐ、か」
「その言い方は物騒だけど、そんな感じ」

苦笑して言うと、国広が目を閉じた。

五秒ほど経った頃に、透明だった玉がみるみる金色に変わっていく。
「おお!」と驚嘆したようにこんのすけと今剣が声をあげる。

「軽歩兵の特上ですね!!素晴らしいです!」

こんのすけの言葉に、国広が伏せていた目を開ける。手の平の金色に輝く刀装に自分でも吃驚しているのか国広は何も言わなかった。

「すごいです!」
「凄いね! 国広!」

今剣と私の言葉を聞いてはっとした国広が刀装を私に押し付けてくる。

「これでいいだろう」

照れたようにフードを掴み深くかぶった国広に「ありがとう」と言うとさらに俯いてしまった。顔どころか服も見えないくらいフードを下に引っ張っているので少し怖い。
布おばけのようだ。

「ぼくもやってみたいです!」

今剣の言葉にうん、と頷くと素早い動きで資材置き場へ飛んでいく。微笑ましいなあ、とその背を見送り持っている刀装をよく見てみる。

手入れ部屋や鍛刀部屋で見たような小さな妖精が中に入っていた。
眠っているのか、目は閉じられている。
妖精は菅笠を被り、腰には刀が差してあった。これが、兵士なのだろうか。

「ぜんしんのちを、そそぐ」

倉庫から出てきた今剣が、小さく呟きながら透明の玉を握り締める。しばらく経つと、玉が銀色へと変わっていった。

「でーきたっ! けど、きんいろじゃない……」
「軽騎兵の上ですね!」

少し悲しそうな顔をした今剣が銀色の刀装を渡してくる。

「ありがとう」と言うと俯いて「きんいろじゃなくてすみません……」とか細い声で言われた。そんなことないよと言っても今剣は暗い顔をしていた。国広も布オバケを卒業し不安げにこっちを見てくる。どうしようと考えてから、持っていた二つの刀装を台に置いた。

「私も作る!」
「えっ、主さま!?」

こんのすけの制止も無視し資材置き場へ走った。

案の定出来た刀装は真っ黒で使い物にならなかったし、こんのすけに資材の無駄使いですと叱られてしまったけど、今剣と国広が笑ってくれたから良しとしよう。

怒るこんのすけを宥め、黒く染まった刀装を胸に仕舞う。

この刀装の中に居た小さな妖精を、殺してしまったのだろうかと考えたら、少しだけ心臓が冷えた気がした。