大樹の節1
ガルグ=マク士官学校へ入学して真っ先に始まったのは同じ学級の生徒同士による交流だった。
帝国出身の生徒が集まる、
私は一年間、ここの生徒として彼らと過ごさなければならない。
「ナマエ」
「ああ、エーデルガルト……様。ご機嫌麗しゅう」
「……その口調、やめてくれる? 皆の前だからと、無理に畏まらなくていいわ」
「そう、ならやめるよ。伯爵から口煩く言われていたけど、皇女の命令が優先だしね。これから一年よろしく」
「ふっ……ええ、よろしく」
そう微笑んだエルの後ろに控えているヒューベルトにも片手を掲げて視線を向ける。ヒューベルトは少しだけ目を伏せて応えると、背を向けたエーデルガルトと共に離れていった。
「もしかして、君がナマエか?」
「?」
聞き覚えのない声の男に声をかけられる。顔を向けた先に居る男を見ても、その顔に覚えはなく、何故名前を知っているのかと首を傾げる私に男は声高らかに言った。
「私はフェルディナント=フォン=エーギル!! 父からフェンリル伯の養子のことは聞いていた。話に聞いた通り、スミレの花のように可憐で愛らしい人だな、君は」
「……エーギル?」
「ああ。知っての通り、私は宰相を世襲するエーギル家の」
「知ってる」
私の言葉にぱあっと表情を明るくさせるフェルディナントに、みるみる頭が冴えていくのが分かる。さっきまでの眠気が一気に消え、目の前の笑顔が憎たらしくてたまらない。
「では、これも耳に入っているだろうか。私達の縁談の話なのだが―――」
縁談、という単語に周囲の女子から小さく悲鳴があがるのが聞こえた。どんな感情による叫びなのかは分からないが、正直私も叫びたくて堪らない。目の前で喋り続ける言葉が耳を通り抜けて去っていく。このまま本人も去ってくれないだろうか。
「―――というわけで、将来夫婦になるかもしれない私達だが、ひとまずお互いのことを知るために一緒に紅茶でも」
「無理」
思わず口を挟んだ私に、フェルディナントは「は、む、無理!?」と目に見えて狼狽えた。
「君と結婚するつもりは毛頭無いから、親しくなる必要はない。というか、婚約関係でなくとも、エーギル家の人間と親しくするつもりはないよ」
「なっ……」
「さようなら」
愕然とするフェルディナントの横を通り抜けると、話を聞いていたのか呆れるエルと笑いを噛み殺しているヒューベルトが立っていた。その後、「初日から問題を起こさないで」と叱られてしまったが、こればっかりは勘弁してほしい。むしろ、今後の衝突を避けるために必要なことだったのだ。