翼なきものたちの空
11月中旬、
春の高校バレー、東京都代表決定戦。
「黒尾さん、女子の試合もうすぐ終わります」
「ん」
芝山の言葉に頷き、腰に手を当てて背筋を伸ばす。文字通り、全国まで「あと一歩」の段階。
「いつも通り行こうや」
「アッス!!」
山本や犬岡の気合の入った返事が廊下に響く。キュッ、と靴の音鳴りがして、聞きなれた声が背後からかけられた。
「いつも通りハイレベルな守備とチームワーク、そして決定力に欠けるネコチャン」
振り向いた先に居たのは、同じく一次予選を突破した戸美学園のバレー部主将、大将優。音駒を挑発する発言に、案の定噛み付いた山本を諌める。コイツ、こんなんで試合大丈夫か。一歩後ろから見守っていた俺の頭を指差して大将がしたり顔で笑う。
「お前いっつもその頭だけど身長サバ読んでない? ほんとは180無いんじゃない」
「ハァァ〜!!? そんなセコイことしません〜」
言い返してやろうと「大将、ミカちゃんに振られる事件」の話題を出すと、そいつは飄々とした表情から一変、動揺を隠せない様子でうろたえ始めた。
「そういうお前はどうなんだよ!! 苗字さんに好きの一言も言えねえくせに!」
昔から俺の苗字への気持ちを知っている大将の言葉に言葉が詰まるが、すぐに言い返す。
「言いましたけど!?」
事故だけど。
俺の発言に大将はポカン、と口を大きく開いて動きを止めた。それから小声で「え、マジで? 言ったの?」信じられない、と言いたげに呟いた。
「返事は?」
「……」
「振られてんじゃねえか」
「振られてねえし! まだこれからだし!」
慌てて叫ぶように言った俺に、大将が不満げに再び口を開いて、すぐに閉じた。焦ったような表情とその視線の先に居るであろう人物を察して、俺も荒立っていた心を落ち着かせる。これは合宿の時のあれと同じだ。
「音駒のいつも通りは前と違うっスよ」
トイレから戻ってきたリエーフが大将の後ろから不敵に笑って言う。その後ろから顔を覗かせる苗字は言い合いしていた俺たちを、細めた目で見ていた。
初戦の相手は梟谷。戸美と試合をするとしたら―――
「決勝で会おうぜ」