好きなタイプの話
夜久に用があって教室へ出向くと、あいつが真っ先に視界に入った。向こうも俺に気付いて「よっ」なんて互いに手をあげて、ちょっとだけ気分を上げてから夜久の前の席を借りる。向こうは女子数人と楽しそうに会話をしていて、いいな〜混ざりてえ〜ていうか二人で話してえ〜なんて考えながらも表情を引き締めて夜久と向き合う。顔をぐしゃぐしゃにして俺を睨んでいる夜久はうんざりしたような、呆れたような面持ちのまま要件を聞いてきた。
「すき」という単語を聞いて思わずぴくりと耳が動く。その単語を口にしたのは俺が好きな女の子で、俺は不自然に夜久との会話を止めてしまった。夜久は首を傾げているがそれどころじゃない。少し離れたところで話しがヒートアップしたのか、会話の節々に出てくる単語が聞こえてくる。好き、とか気になる、とか。思春期男子の好奇心を思いっ切りくすぐる言葉ばかり。聞き耳を立てているわけじゃない。ただ聞こえただけだから。真面目な顔を維持していた俺の耳に、あいつの声が届く。「毛は黒いほうがいいな〜」なんてぼんやりとしながら言った言葉に俺はその場でガッツポーズしたくなった。
だというのにすぐに「目はまんまるくて大きいのが好き」と言われて崩れ落ちそうになる。
俺は恨めしくて目の前のまんまるく大きい目をした男を睨みつける。機嫌を損ねたように俺を見るその目は少し細くなっているはずなのにそれでもでかい。チッ
その後も続くあいつの好みのタイプに耳を傾ける。騒がしいよりは落ち着いていて、甘えたがりの子がいいなあ。なんて照れくさそうに笑っている横顔を見て心の中でかわいい、とぼやく。それと同時に頭を悩ませる。同年代の男共に比べたら落ち着いている方だろうが、夜久や海と居るときはそれなりに男子高校生のようなことをして騒いでいるし、部活のマネージャーであるあいつにはガキみてぇなところをたくさん見せてきた。好きな女子への甘え方なんて俺は知らん。教えてくれ。
―――海とか、研磨みたいなヤツのほうがいいのか?
「あ、声は低いほうがいいな」
―――よしっ
と今度こそ隠さずにガッツポーズをする。夜久はようやく俺の奇行の意味に気付いたらしく、さりげなく自身も女子たちの話に耳をすませていた。「体型はすらーっとした子がいい。スリムなかんじ!」運動やってるし太ってはねえな、とポジティブ思考を繰り広げていた俺は、アイツが「毛並みがサラサラなのは外せないね」と拳を握って力説する姿を見て首を傾げる。は、毛並み?
「なあ、さっきからなんの話してんだ?」
夜久が眉を顰めて女子たちに聞く。こっちに顔を向けたあいつは満面の笑みで「好きな猫の話!」と言った。
俺は今度こそ机の上に崩れ落ちて言葉を失った。教室内に夜久の爆笑する声が響き渡って、あいつが心配そうに俺の名前を呼ぶのが聞こえる。しばらく放っておいてくれ、今は顔をあげられそうにない。