あなたの指に何度でも神を見る


試合中、名前さんの表情はほとんど同じで変わらなかった。それは僅差で負けてしまっても変化せず、号泣する選手の背を優しく叩き立ち上がらせ、彼女は涙の一つも見せなかった。仲間からは、きっと慕われていただろう。中学を卒業して以来ずっとバレーから遠ざかっていても、当時のチームメイトや後輩から連絡が来るのはその証明だ。

どんな気持ちだったのだろうか。六年前の、俺の知らないセッターとしての名前さんは、何を考えて何を思って生きていたのだろう。どんな気持ちでこれまで生きていたのだろう。バレーが出来なくなった自分のことを、バレー自体を、

バレーをしている俺たちを見て、何を思っていたんだろう。



「この道しか無かったなんて、言わないでください」

鼻の奥がつんと痛み、涙が出そうになる。誤魔化すように手を離し、名前さんの頭を抱きかかえる。

「たとえ名前さんが合宿に来なくても、お父さんの話を聞いて興味を持った俺が会いに行ってましたよ。話を聞くことが無くても、バレーの試合映像を見た俺が、あなたにファンレターを送って強引に友達になりますし。映像を見なくても、名前さんが春高を見に来ていたら俺は絶対に一目惚れしたので、そこから接点が出来ます」
「……」
「たとえ名前さんがバレーじゃなくて他のスポーツをやっていても、俺は絶対にあなたを見つけるし、必ず好きになる」


だから

だからもう、

ぐっと唇を噛み締め、強く目を閉じた。脳裏に浮かぶのは三年前にこの目で見たトスだ。三年ぶりにやって出来るような完成度じゃなかった。何度も練習したんじゃないのか。合宿中、気付けばボールに触れていたのは、普段からそうしていたからじゃないのか。爪を整える習慣がずっと続いているのだって、きっと。

「無理に捨てようなんて、考えなくていいですから」
「……京治くん」
「バレーがあなたにとってかけがえのない、忘れられない、大切なものなら、どうか離さないでください」

俺は、この人の一番にはなれない。名前さんは心の一番奥深いところにバレーボールがある。二度とコートに立てないと言われても、六年ずっと抱えて生きていたんだ。ベタ惚れじゃないか。敵うわけないだろ。

たとえ死ぬまで、彼女にとっての一番が変わらなくても構わない。
またバレーをしたいと、彼女がそれを願うなら俺も神に祈ろう。
もしも奇跡が起きて、彼女が再びコートに立つ日が訪れたのなら、俺は最前列で彼女の応援をする。お弁当を作って、写真を撮って、名前を呼んで、バレーが大好きな名前さんの姿を目に焼き付けていたい。たとえそれがコート上でなくてもいい。


あなたは俺の、憧れの人だから。

ぼろぼろと泣きながら言った俺に、名前さんはなにも言わなかった。ただ、背に腕がまわる。きつく俺を抱きしめる名前さんの吐き出す息は熱くて震えていた。意地でも爪は立てないんだな、と俺は笑った。
その優しさのひとひらが愛おしかった。