お探しの月は此処にあります
彼女は隠し事をされるのを嫌う。俺はこんなに分かりやすい男だったろうか。少なくとも高校時代はそんなことなかった筈だ。
「すみません。勃たないように女装した木兎さん達を思い出してました」
これ以上酷い言葉を俺は知らないし、口に出してから正気に戻っても遅い。案の定振り向いた名前さんは形容し難い表情をしていた。「この人何言ってんの」と言いたげな顔。しばらく見つめ合ってから、脱力したように名前さんは仰向けになり俺の胸に頭をぴたりとつけた。可愛い。
考えることを放棄したのか、名前さんは俺の手を持ち上げて遊び始めた。珍しいこともあるものだ、とその様子を眺める。彼女の細い指が俺の手の上を滑っていく。好奇心で腕の力を抜けば、名前さんの白いお腹の上に落ちた。この人どこもかしこもすべすべだな。手の平で感触を楽しむ俺に目もくれず、今度は指を一本ずつ触り始めた。新手の拷問か? 我慢大会? もう不戦敗でいいです。
「合宿」
薬指に触れていた手が止まった。「合宿?」と俺が聞き返すと、名前さんは「三年前の、行って良かった」と呟いた。俺が何も言えずに居ると、きゅっと小指を握られる。赤ちゃんの方が強く握るだろうなってぐらい、弱々しい力だった。名前さんは泣いてなんか居ないのに、今にも泣き出しそうな子供に見えた。
「京治くんと一緒になるには、この道しか無かった」
「……名前さん」
「初めて、良かったと思えた」
名前さんは、言葉が足りない。だから頭の中で、必死に言葉を付け足す。俺に何か言って欲しいわけじゃないんだ、この人は。この人は全部自分の中で考えて整理して、それで終わらせてしまう人だから。他人の言葉に揺らいだりするような人ではないから。けど、俺は違う。一緒に向き合って考えたい。お互いがお互いの人生に影響を与えるような、お互いを生かす存在でいられるような、そんな関係に。
六年前に事故にあわなければ、名前さんはバレーを続けていたはずだ。全国で戦える強豪校のセッターとして。俺が彼女の存在を知るのは、熱気に包まれた、郊外の息苦しい体育館ではなかっただろう。雑誌か、テレビか、春高の会場か。名前からの新着メッセージがありますなんて、奇跡でも起こらなければありえない。
こうして惹かれ合って、結ばれたのは確かに奇跡だ。けど、
「バレーが出来なくなったことを、良かったなんて言うな」
「……」
「言っちゃ駄目だ」
気付けば俺は名前さんの手を力強く握っていた。三年前のあの夏、体育館で見た彼女のトスが忘れられず、動画サイトに残っていた試合の映像を探した。中総体の決勝で、点を取りまくるスパイカーより、リベロのスーパープレーより、体格に恵まれた選手より、セッターに目を奪われた。本当に綺麗なプレーだった。お手本のような、少しの乱れも無いトス。スパイカーの能力を引き出すような、会場の観客全員を味方につけるような、そんな選手だった。