征天魔王の懐刀


BASARA信長の懐刀が主人公

▽▼▽
(三成視点)


いけ好かない、第一印象はそれだった。


刑部と知り合ってすぐに紹介された名前という名の女。刑部の姪だという割には奴に似ず、いつもへらへらと笑みを絶やさない女だった。私より一つ年が上だというが見た目も中身も童のようだ。なぜそのような人間が半兵衛様のお傍に居るのかと疑問を抱いた時期もあったが、正直で嘘を吐かない奴のことは少なからず気に入っていた。友と呼べるほどには。

―――いや、友というよりは妹と言ったほうが正しいか。







―――名前が豊臣から織田へ移ってもう七年になる。

もう七年も話していない。遠目で織田信長の後ろに控えている名前を見たことはあったが、まるで別人のような表情をしていた。

数日前に、名前の実父が織田軍に攻め込まれ城内で腹を切ったことを知った。その妻も共に自害したらしい。

つまりは刑部の実妹と妹婿が殺されたのだ。娘が所属する軍勢に。

名前はどうしているのだと聞けば、刑部は目を細め口を噤んだ。

名前は魔王の影響で変わってしまったのだろうか。あの心根の優しい娘は跡形もなく消えてしまったのだろうかと、半兵衛様は悲しそうに呟いた。なんてことだ、名前め、半兵衛様のお手を煩わせるとは。

私が名前の目を覚まさせます、と言えば半兵衛様は「三成なら出来るかもしれないね」と笑った。


(濃姫視点)


燃え盛る城を見つめる名前の後ろで、濃は憂心を抱いていた。


名前の前に居る自分の夫の背を見つめ、彼女の心情を想像する。あの城の一室で、先ほどある夫婦が自害した。織田の軍勢を迎え撃ち、猛攻を受けた結果だった。残された家中達も同じように事切れていた。

―――ここは、名前が生まれた城であり、自害した城主とその妻は実親だ。

足元にある骸の中には、もしかしたら彼女の見知った顔がいたかもしれない。今彼女はどんな表情をしているのだろうか。絶望に打ちひしがれ涙を流しているのか、それとも放心しているのだろうか。

濃は思う。
きっとどちらでもないだろう、と。そもそも、城に火を放つよう進言したのは名前自身だ。その心中を理解することなど一生できないだろう。


名前が織田に来てもう7年、裳着したばかりの彼女を見た時はこんな幼い娘が織田の、夫の役に立つのだろうかと不安に思ったものだが、今思えば杞憂にも程があった。信長が秀吉の元から自らの手で連れてきた少女。妾にでもするのかと騒然とした家中達は、信長が少女を戦場に放り出したことに絶句した。濃でさえ一度夫を止めたぐらいだ。

血の気が引き、声を失っている兵と共に名前は刀を手に戦った。肉のない細い腕で刀を振り回し、首級を信長に差し出した少女。その頃には兵の恐怖の対象に名前も入っていた。

名前は半兵衛の小姓だったらしいが、あのまま豊臣に居たら才能は燻ったまま消えていただろうと、濃には確信があった。名前は織田に来て覚醒したのだ。織田に来たからこそ、今の彼女が存在している。信長が名前の才能を見抜き織田に引き入れたことは天命だった。

名前の居場所はここなのだ。

「濃姫様?大丈夫ですか?」

気づけば目の前に立っていた夫の姿は無く、名前がこちらを見上げていた。いつもと変わらないあどけない顔。凜々とした大きな目から心の内を読み取ることはできない。

「私達は周辺を捜索してから戻ります。まだ残党がいるかもしれませんから。主君のお側には蘭丸がおりますので、濃姫様もお早く」

「……ええ」

名前の言葉に背を押されその場を去る。

馬に乗り信長の後ろについてすぐに振り返った。燃える城を背景に、名前が兵に指示を出している身振りをしているのが見える。

誰もいない場所でなら彼女は泣くのだろうか。両親の亡骸に縋り、織田に来たことを後悔するのだろうか。

―――いや、きっとないだろう。だって彼女は

「魔王の懐刀なのだから……」

横に並んでいた光秀が聞き返してくる。濃は何も言わず、首を振って前を向いた。信長も蘭丸も光秀も兵も、何一つ変わらない。名前も変わらない。きっと変わることはない。

尾張に戻れば、すぐに美濃攻めが始まる。炎に焼かれる故郷を想像して濃は笑った。

私もきっと変わらない。