不老不死とジョジョ
主人公が不老不死の人外
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―――ジョースター邸には、慈愛の女神が二人いる。
ジョージ・ジョースターが名前と出会ったのは、彼がジョースター家の家督を継いだばかりの頃のことだった。
ジョースター邸から少し離れたところにある川に、彼女が流れ着いていたのだ。決して安くないドレスを纏った女性を見てジョージはどこかの貴族の娘なのだろうと考えた。その前日まで、イギリスでは久しぶりの大雨が降りあちこちで被害が出ていた。きっと事故に巻き込まれてしまったのだろうと不憫に思ったジョージは、自分の服が濡れるのを気にせずに女を抱き上げ屋敷に連れて行った。たとえ女の服装がみすぼらしかったとしても、彼はそうしたであろう。
屋敷に返ってきたジョージとその腕に抱かれた女性を見て執事達は驚愕したが、すぐに準備を整え手厚く保護した。メイドの呼びかけに応えるように、彼女はその日のうちに目を覚ましたという。深い海のような瞳が印象的だったと後にメイドは語った。目を覚ました彼女は今までの記憶はおろか自分の名前すら忘れてしまっていた。ジョージはすぐに警察に届け彼女に似た行方不明者がいないかどうかを探したが見つからなかった。似たような特徴の女性の捜索届はいくつか見つかったが、どれも何十年も前のものであり二十歳程に見える彼女とは合致しなかったのだ。記憶もなく、行くあてもない女性が路頭に迷えばどうなるかジョージは容易に想像ができた。その日のうちに、彼女はジョースター邸で暮らすことが決まった。名前はジョージの曾祖母の名をつけた。
それから十年もすれば、名前はすっかりジョースター邸に馴染んでいた。執事やメイドはもちろん、ジョージとは実の兄妹のように親しくなっていた。数年前にジョージと結婚しジョースター家の一員となったメアリーとも姉妹のように仲良くなり、名前は誰からも愛される存在になっていた。だが、その頃から名前と接してきた全ての人間は違和感を抱き始めていた。
―――今思えば、初めから不自然なことはあったが、誰も口にしなかっただけかもしれない。
名前は怪我をしたことがなかった。慎重な性格、の一言では済ませられない。名前を拾ったあの時も、彼女は川を流れてきたにも関わらずその体には擦り傷一つついていなかった。今まで名前を世話してきたメイドは着替えを手伝うときいつも「傷一つない綺麗な肌だ」と思っていたらしい。そして何より、名前は成長しなかった。ジョージに拾われたとき、名前は成人してまだ間もない年頃だろうと言われていたが、それから十年経った名前の容姿はあの頃と何も変わっていなかった。髪や爪はそのままの長さを保ち、体型は一ミリも変わらない。まるで彼女だけ時間が止まっているようだ、とジョージはメアリーに語ったことがある。名前はジョースター家の敷地の外へ行くことはなくなった。
屋敷に出入りする人間が全員心優しかったのが幸いだった。名前はきっと女神さまなのですよ、と何気なく言った言葉に名前がどれだけ救われたか。そして彼らは名前の異質な体質に関することを口外しなかった。ジョージは使用人に恵まれていた。
それから数年が経ち、ジョナサンが生まれた。名前はジョナサンを抱き上げて、震える声で言った。
「こんな小さな子がジョージみたいに大きくなるなんて信じられない」
名前の形相にメアリーは思わず吹き出し、笑って言った。何気ない一言だった。
「この子の成長を傍で見守っていてね」
メアリーの言葉と表情を、腕の中の小さな温もりを、名前は今でも鮮明に思い出すことができる。
それから数ヵ月後、メアリーは馬車の事故に遭い帰らぬ人となった。
名前にとって初めての人の死だった。ジョージ達が乗っている馬車が事故に遭ったのだと、執事に言われて心配はしていた。だけど帰ってくるだろうと思っていた。名前にとって、怪我はすぐに治るものだからだ。擦り傷は一瞬で、深い傷も数秒で治るのが怪我だと、名前は認識していた。柩の中で眠るメアリーを見て「どうしてメアリーは目を覚まさないの」と傍らに立つ執事に問うと、執事は口元を覆ってむせび泣いた。もうメアリーに会うことはできない。彼女は手の届かない場所へ行ってしまったのだ。執事の言葉に、初めて名前は人の死を実感した。こみ上げてくる思いを抑えきれず、気づけばぽろぽろと涙を溢していた。瞼を焼くような熱い涙が溢れ出し子供のようにすすり泣いた。名前が初めて流した涙だった。
メアリーとの最後の別れの時、名前はただ一言「寂しい」と言って頬を撫でた。冷たく固い感触に、彼女の死を改めて突きつけられた。
「この子の成長を傍で見守っていてね」
記憶の中のメアリーが笑う。あの笑顔をもう見ることはできない。今思えば私は彼女に貰ってばかりで何も返せないまま終わってしまった。メアリーの為に出来ることはなにか、と名前は考えて、ジョナサンを見た。まだ幼い、母を亡くしたばかりの子を
私が、守ってあげなければ。
私にメアリーの、母親の代わりなんてできない。だけど理解者にはなれるはずだ。世界の全てがこの子の敵に回ったとしても私だけは彼の味方でいよう。ジョナサンに、何かを与えられるような存在になろう。私にとってジョージやメアリーがそうであったように。
名前は頬を濡らしていたものを乱暴に拭うと泣くのを止めた。執事達が名前の涙を見たのは、これが最初で最後のことだった。