小百合葉の


―――お前なあ、見過ぎだよ。


善逸の言葉に俺は首を傾げる。見過ぎとはなんのことだろう。鬱陶しそうに顔を歪めている善逸は、俺を睨んだあとに視線を横に向けた。

「見たくなるのは分かるけどさー」

善逸の視線を追い、視界に映ったのは一人の少女と負傷した鬼殺隊の隊士。アオイさんと同じ服装の少女は、眠ったままの隊士の腕の包帯を取り替えている。細く白い指が、顔にかかった横髪を耳にかけた。どき、と胸が強く鳴る。


「その音やめろよな」

「お、音?」

「聞いてるこっちが照れくさくなる」


善逸から呆れたような匂いがする。やはり気付かれてしまった。全集中の呼吸を使っているわけでもないのに全身が熱い。困った、どうしよう。彼女はあの隊士の包帯を変えたあとにここに来るんだ。

「名前ちゃーん!!」

「!?」

普段より高い声で彼女を呼ぶ善逸に驚き肩が跳ねる。「はーい」鈴を転がしたような声が耳に届く。ああ、俺が善逸のように耳が良ければ。彼女の声をもっと、なんて

「炭治郎さん?」

「ハイッ!!!」

気付けばベッド脇の椅子に彼女が居た。近い、見られている。消毒液の匂いに混じってほのかに花の香りがする。なんて優しい匂いだろう。

「少し顔が赤いですね。熱でもあるのかしら」

白魚のような手がゆっくりと額に伸びる。綺麗な手だ。マメが潰れて固くなった俺の手とは全然違う。きっと触ったらふわふわなんだろうな。ほら、やっぱりそうだ。マメなんて無いし、傷だって見当たらない。洗濯をするからだろうか、指の先が少しだけ荒れていた。それでもとても暖かい手だ。ずっと触れていたくなる。

「いつまで手握ってんだお前!!」

スパンッ! と勢いよく手刀で俺の手首を叩く善逸に、ぼんやりとしていた意識がはっきりした。おおおおお俺は今何を!?

目を丸めてキョトンとしていた名前さんが目に止まり、慌てて佇まいを正し頭を下げた。

「すみません!! とても素敵な手だと思って!!」

正直かよ、と呟く善逸の言葉も耳に届かなかった。自分の体が欲に忠実すぎて恐ろしくなる。揃えて置いていた俺の手に、彼女の手がそっと重ねられる。ゆっくりと顔をあげて見上げた。

「炭治郎さんの方がずっと素敵ですよ」

「…………」

「手の話な? 分かってるよな?」


万代和歌集 夏歌