苦い夏

苦い夏



夏の気配がいっそう濃くなってきたある日の昼休み。

「赤葦! 夏の合宿の予定出たよ!」

パタパタと俺に近寄るのは同じクラスでバレー部のマネージャーの霜月だ。

「そう。楽しそうだね」

「うん! 憧れの黒尾先輩に会えるからなぁ」

ほわん、とした笑顔を浮かべる霜月は、音駒の黒尾さんに恋をしている。
そして俺は、そんな霜月に恋をしている。
だけど霜月は実際、黒尾さんが好きなのは嫌と言うほど聞かされてきたから、自分の気持ちを伝える気はない。それでも俺が霜月の恋路を応援するのは、少しでも好きな人と関わっていたいからだ。

「ほんと、霜月は黒尾さんが好きなんだね」

じんじんと、胸が痛んだ。




そして迎えた夏の合宿。

「霜月、お疲れ〜」

「木兎さん。黒尾先輩! お疲れさまです!」

霜月は木兎さんとも仲がいいから、木兎さんとよく絡んでいる黒尾さんとも必然的に話す機会が増える。

「ミオチャン今日も頑張ってるね」

「! 黒尾先輩! ありがとうございます!」

霜月は花がほころぶような溢れんばかりの笑顔を浮かべる。

ずきずきずきずき。
胸が痛む。

「よっしゃ、午後も行くか!」

そうして俺たちは午後の練習を再開した。




「黒尾ってあれだよな、彼女いたっけ?」

「木兎? あー、まあいるけど」

夜の自主練の時間、私はたまたま木兎さんと黒尾先輩の話を聞いてしまった。

正直ショックではあったけど、思ったよりも平気な自分がいた。
なんだろう。

「あ、霜月さん……」

「え? あ、月島くん……」

木兎さんたちを盗み見ていた私に月島くんが後ろから気まずそうに声をかける。

「聞いちゃいました?」

「え? ああ、黒尾先輩に彼女がいる話?」

私が冷静に答えれば、月島くんは意外だと言いたげに眉を動かした。

「霜月さん、あの……」

「あ! つっきー!」

そんな気まずい私と月島くんに気づいた木兎さんが月島くんの名前を呼び歩いてきた。

「あっ霜月も居たのか……」

木兎さんは私に気づくと気まずそうな顔をした。

「あの、木兎さん。霜月さん、黒尾さんとの話、聞いてたみたいです」

「マジでっ!?」

木兎さんは驚き声をあげたけど、だけどやっぱり私はそれほどショックを受けていなかった。

「木兎さん、月島くん。私、そんなにショックじゃないですよ?」

正直な気持ちを言えば、月島くんと木兎さんは顔を見合わせたあと私に言った。

「霜月さん。霜月さんはたぶん、黒尾さんじゃなくて赤葦さんが好きなんじゃないですか?」

「そうだな。どう見ても赤葦のこと、好きだろう」

「え……?」

二人の言葉に私は戸惑った。
私が赤葦くんを好き? ほんとに私は赤葦くんが好きなのだろうか。
いつも黒尾先輩の話を聞いてくれた彼。私を応援してくれた彼。笑ったり泣いたり、他愛ない話をしたり真剣な話をしたり。
いつも私の隣には、赤葦くんがいた。

「わた、赤葦くん探してきます」

気づいたら体が動いていた。




夏の合宿のある夜、汗だくで息を切らした霜月が俺に走り寄る。
誰もいない廊下、霜月と二人きりだ。

「赤葦くん。私ね、黒尾先輩に彼女がいるって知って……それで気づいたの。私、赤葦くんが好き」

何を言い出すのか。
霜月が俺を好き?
そんなはずない。
つまりはきっと、黒尾さんがダメだったから、俺にしたのだろう。
そう思ったら片想いの時よりイライラして、気づいたら語気強く言っていた。

「黒尾さんがダメだったから、代わりに俺を選ぶの? 妥協するの? ……バカにするのもほどほどにしてくれないかっ!」

「っ、赤葦く、」

響き渡る俺の声に、霜月は肩を震わせ泣き出すと、俺から逃げるように走り出していた。

言い過ぎたかもしれないと後悔はしたけど、追いかける資格はないと思った。

「おい、赤葦」

「っ! 木兎さん、月島……」

霜月が走り去ったあと、廊下の角から現れた二人。
今のやり取りを聞いていたのだろう。

「赤葦、霜月は嘘とか妥協とかでお前にあんなこと言うやつじゃないと思うぞ」

「まあそうですね。霜月さん、大概鈍いので、黒尾さんへの憧れを恋と勘違いしてたくらいですし。周りから見たらどう見ても赤葦さんが好きなのに……」

二人の言葉に俺は返す言葉が見つからなかった。
霜月が、俺を好いてくれてる?

「ほらもー! 赤葦、早く霜月を探しに行けよ。泣かしたままなんて男らしくないぞ!」

木兎さんの言葉に、俺は霜月を探しに走り出していた。



「霜月っ!」

二階の突き当たりの部屋の前で霜月を見つけた。霜月は俺を見るなり逃げようとしたものだから、反射的に手をつかんでいた。

「霜月、ごめん。俺、ずっと霜月が好きだった、から。付き合ってくれない、かな?」

うまく言葉がでない。
伝わっただろうか、拒絶されないだろうか。
恐る恐る霜月を見た刹那、霜月は俺の背に手を回し、胸に顔を埋める。

「嫌われたかと思った。……ごめんね、赤葦くん。気づくのが遅くて、ごめんね」

ああ、何で謝るんだって、胸が一杯になってしまって言葉がでない。
俺は霜月の背中にそっと手を回し、恐る恐るに抱き締めた。



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優月さまリクエストです。
赤葦くんで切甘です。
期待に添えたかわかりませんが、精一杯書かせていただきました。
リクエストありがとうございました!



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