後押し

後押し



ごうごうと炎が上がる。ざわつくギャラリーと怪我人のか細い声。

たまたま出くわした事故現場、私はただ立ち尽くすことしか出来なかった。
事故発生から大分時間がたっているようだが、いまだ救急車は来ていない。地面に血を流す人は重症なのは誰が見ても明らかだ。
私は葛藤していた。


何を隠そう私には治癒の個性がある。ヒーリングキスと皆が呼ぶそれ。対象相手にキスをすることで相手の傷を治せるそれが私は嫌いだった。

この能力のせいで周りからはキス魔と呼ばれたし、何よりこの力は使いすぎると疲れるから、だから私はこの力を使いたくなかった。

だけど、今使わなくていつ使うんだろうか。

「冬野、」

「えっ、轟くん?」

立ち尽くす私に話しかけたのは、同じ中学の轟くんだった。

「怪我人はお前に任せる。俺は火を消す」

「で、でもっ」

それでも私は躊躇した。

「今使わないでいつ使う? 躊躇うことはない。お前の力はすごくいい個性じゃねえか」

に、と笑った彼はそのまま炎へと走り出す。
私の中のなにかが吹っ切れた。私は彼に続くように、怪我人のもとへと走り出していた。




たまたま家の近くで事故現場に遭遇した。重症の怪我人が地面にうずくまり、辺りに炎が上がっていた。

その場にいた冬野が目に入る。こいつは確か、治癒の個性を持っていたはず。周りのやつは冬野の個性をからかっていたが、俺にはすげえ個性だとしか思えなかった。

「今使わないでいつ使う?」

そう言い残し、俺は炎を消すべく走り出した。



消火を終え、辺りを見渡せば、冬野の力によって怪我人はほぼ治癒していた。本当にすごい力だ。

「轟、くん……」

最後の一人の治癒を終えた冬野は、俺を見て清々しく笑うとその場に倒れ込んだ。
個性の使いすぎか。

俺は冬野に走りよって抱き起こす。

「轟くん、私」

明らかに朦朧としている冬野は、俺をみるなり笑って言った。

「私、雄英行く。サポート科に、行くよ」

そう言ったかと思えば冬野は意識を失ったようだった。
それがなぜだか頭に焼き付いてしまって、きっと俺は、この時から冬野に惚れてしまったのかもしれない。まっすぐな、彼女に。


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千明さまリクエストです。
轟くんで、事故現場に遭遇して戸惑う夢主の後押しをするお話です。
個性:ヒーリングキス。キスした人の傷を治す。使いすぎると疲れる
期待に添えたかわかりませんが、精一杯書かせていただきました。
リクエストありがとうございました!



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