無の人
無の人
彼はとにかく無口で無表情で、だから私は彼が苦手だった。もっと言えば、好きではなかった。平たく言うと、嫌いだった。
そんな彼は、私を継子として育ててくれているわけだが、苦手なものは苦手なのだから仕方がない。
「冨岡さん、あの」
「……」
「あの、ご飯、出来ました」
「……ああ」
必要最低限しか喋らないし、仮に喋ったってすごくぶっきらぼうで怒ってるように聞こえてしまうから、私はいつも冨岡さんの前では縮こまってしまう。
「##NAME1##、いつも言ってるがお前はもっと背筋を伸ばしてしゃんとしろ」
「え、はい……そうなんですけど」
「何だ? 何かあるならはっきり言え」
「いえ。なにも……なにもない、です……」
しゃんとしろ、って言われたって、貴方の前で堂堂と物を言えるような度胸はない。今だって冨岡さんは私をつり上がった目で見ているから、私はなんにも言えないのだ。
「全く。いつもいつも何に怯えている? 剣の腕は大したものでも、その性格を直さなければまだまだ半人前――」
そんなこと、私が一番よく分かっている。
もともと私は気弱な性格で、鬼殺隊に入るまではよく近所のあんちゃんにからかわれていた。
未だに私はそんな気弱な性格が抜けきれず、冨岡さんはそんな私をいつも煩く叱る。
「私だって好きでこんな性格になったんじゃないです」
「##NAME1##?」
「冨岡さんなんか、嫌いです!」
「!?」
村が鬼に襲われた。私の家族はもちろん、私をからかっていた近所のあんちゃんも死んだ。
みんなみんな、私以外は帰らぬ人となった。
敵討ちだなんて高尚な理由は持ち合わせていない。ただただ、自分と同じ思いをする人を増やしたくなかったのだ。
でもどこかで、生き残った私の責務だと気負っていたのかも知れない。
何にしても、鬼殺隊に入隊して、冨岡さんの継子になるだなんて予想外だったのだ。
あの日殺されるはずだった私を助けた、冨岡さんに。
ある時期は冨岡さんを恨んだこともあった。私だけが助かった罪悪感を、冨岡さんに転嫁していたのだ。
それでも冨岡さんは私の気持ちを知ってか知らずか、私にこう言うのだ。
「お前が生きているのは俺のせいだ」
俺のせい。
その言葉を聞く度に、私の心の靄が少しだけ晴れた。彼を責める理由なんかないのは承知の上だが、それでも私は彼の気遣いに甘えていた。
尤も、彼のその気遣いに気付くのに大分時間がかかったのだが。
「冨岡さん?」
嫌いだ、言った瞬間冨岡さんがとても驚いたような顔をした。と言っても、それはほんの僅かな変化だから、常日頃から顔を会わせている私にしか解らない変化であろう。
「俺はお前が好きだ」
「へ?」
「気付いてなかったのか、お前は!」
「ひいっ、すみません!」
一体どうしてこの話の流れで私への気持ちを明かしたのだろうか。いや、今はそれよりも。
冨岡さんが私を好いていただなんてきっと私じゃなくても誰も気づくはずがない。
冨岡義勇はそれだけ無口で無表情で、無愛想な人間なのだから。
170606