特別

特別



もう大分前から恋をしている。これが恋だと気づいたのは、高校三年、歴史の教師である煉獄先生が担任になったときのことだ。

キメツ学園には歴史の成績が悪い人間はいない。そんなジンクスのような噂が立ったのは、他ならぬ煉獄先生の教え方のうまさにある。

「む、##NAME2##!」

私も例に漏れず歴史のテストでは悪い点を取ったことがなかった。高校三年になるまでは。

「あ。煉獄先生」

「##NAME2##、最近のテストの点数が悪いが……」

もしやばれてしまっただろうか。わざと悪い点を取っていることを。わざと煉獄先生を困らせていることを。だけど、

「俺の教え方が下手だったか?」

煉獄先生が発した言葉は予想外のもので、驚き半分、それから悔しさと罪悪感に苛まれた。

「教え方は悪くないですよ。ただ私が怠けてるだけです」

「む……そうなのか?」

「はい。最近あまり勉強していなくて」

「そうか。ならば今日から放課後に特別演習を行おう!」

「へ?」

煉獄先生は時々よくわからない方向に情熱を燃やす。今日もまた、よくわからないところでスイッチが入ってしまったようで、

「それでは放課後にな!」

そう私に言い残し、颯爽と廊下を歩いていってしまう。
どうしよう。煉獄先生と二人きりで勉強だなんて。

嬉しいよりも戸惑いが大きかった。



いざ放課後、煉獄先生は私のためだけにプリントを用意してくれていた。
今まで習ったものをわかりやすくまとめてある、手書きのプリントだった。
字なんかは達筆で、私はしばしプリントに見いってしまう。

「どうした##NAME2##?」

「や。いえ、なにも……」

私の席の隣のすぐそばに、煉獄先生がいる。隣の席の椅子を私の机まで持ってきて、私に勉強を教えてくれていた。

「##NAME2##、そこは」

「あっ、すみません。字を間違いました」

こんな特別演習、心臓が持つわけがない。私は意地を張るのをやめて、次のテストではちゃんと実力を出しきったのだった。



歴史のテストを返された日の放課後、私は煉獄先生に呼び止められた。

「##NAME2##、やればできるではないか!」

「……煉獄先生のお陰です」

にっかり笑う煉獄先生を見て、私まで嬉しくなる。そして、もう二度とあんな風に煉獄先生を困らせるようなことをしまいと誓う。自分のためにも。だけれど、

「それじゃあ、今日も特別演習をするぞ!」

「え、私……もう大丈夫ですよ?」

「油断は禁物だ! もとより――」
――君が俺を特別に見ていたように、俺も君を特別に見ているからな?

それはどういう意味ですか?
聞きたくて、聞けなくて。私と煉獄先生の特別な関係は、私が高校を卒業したあとも続くこととなる。



170815