非日常と日常の始まり

非日常と日常の始まり



出来ることなら高校生活をやり直したい。そんな現実逃避をしたことは少なくなかったが、いざそのチャンスを与えられると、ただただ困惑する他なかった。

「生更木コハルです。……親の都合で転校してきました」

与えられた第二の人生、だけれど私には親がいなかった。友達も。
ただ、大学を卒業するまでのお金は用意されていて、ついでに新しく通う高校も用意されていた。

キメツ学園高校三年生。それが今の私に与えられた新しい人生だった。

とはいえ、私は自分自身が今まで何をしてきたのかの記憶はない。こっちの世界も、もとの世界でも。

「生更木。これから約一年、よろしくな!」

担任の先生は見るからに熱血漢な男の人だった。きらきらの金色の髪と瞳を有する、この学園でも有名な熱血漢な先生らしい。

「はい、よろしくお願いいたします」

とはいえ私は、この新しい生活に希望と期待を抱いているのだけれど。



転入試験で私はなかなかの結果を出したようで、いろいろな教科の教師に会うたびに期待の言葉をかけられた。だけれど実際の今の私の学力は、並みか並み以下だ。私は先に述べた通り今までの記憶があまりない。

「うわ……」

その中でも私はことさら歴史が苦手らしく、おそらく生まれてはじめて0点を取ってしまった。小テストとはいえ、だ。

「今回の小テスト、皆良くできていたぞ!」

担任、兼歴史の教師である煉獄先生が声を弾ませる。私の周りの席の子達は、お互いに小テストを見せあっている。ばれないように彼らのテストに目をやると、80やら90やらと、皆確かにいい点数を取っていた。
すると急に私は恥ずかしくなってしまい、返された小テストをぐしゃりと握り潰すように折り畳んで机の中に押し込んだ。

高校生活をやり直したいだなんて、自分は何て甘かったのだろうか。

結局人は、昔の記憶を美化するものなのだ。高校生活が輝いて見えていたのは、それが過去の話だったからだ。実際に高校生に戻ってみれば、その窮屈さに涙すら出そうだ。

「生更木」

「え、はい?」

授業が終わると、煉獄先生はまっすぐ私の方に歩いてきて、私を見下ろして目を細めた。

「放課後、職員室に来なさい」

「何で……」

聞き返してもすでに煉獄先生は私に背中を向けて歩き出していた。
聞くまでもなく、呼ばれた理由は今回の小テストの結果にあることはわかっている。わかっているだけに、私は放課後が近づくにつれて心がどんより曇っていくのを感じた。



170901