君のこと私のこと
君のこと私のこと
なんの因果か、私は歴史以外はまずまずの成績をとれるようだった。もともと私が歴史を苦手だったのかはいまだに思い出せないけれど。
「よーし、今日は騎馬戦だ!」
「待ってました! 俺が将軍な!」
そして、ひとつ新たに知ったことがある。煉獄先生の授業は楽しい。ときどき脱線して騎馬戦が始まることも少なくない。そしていつも決まってある男子が騎馬戦の将軍に名乗り出て、部下や相手将軍も同じメンバーが名乗り出る。
女子はそんな男子たちの盛り上がりを一歩引きながらも楽しんで眺める。
騎馬戦を仕切るのは煉獄先生だ。
「それ、戦え!」
童心にかえっているのだろう、煉獄先生も心底楽しそうだった。
楽しい時間の記憶はよく残るもので、少しずつではあるけれど、私の歴史の成績は上がっていった。もとより私は、留年しないために毎日歴史の予習と復習を欠かさなかった。
「生更木、今回は平均点を上回ったな」
そして煉獄先生は私に目をかけてくれていた。担任だということもあり、何かと話しかけてくれている。
時々職員室に呼ばれ、私は定期的に煉獄先生と話していた。
「はい、勉強した甲斐がありました」
「そうか。独学ではきつくないか?」
「いえ。でも、そうだ。もし歴史の勉強のコツなどがあったら教えてください」
「予習と復習だな!」
だけど煉獄先生の答えは時々的はずれで、私は戸惑う。半面、勉強のコツなんかないのかもしれないと思わされる。
「生更木、友達は出来たか?」
「まあ、ぼちぼちです」
ぼちぼち、というのは、この学校が中高一貫だということが起因する。ある程度仲良しのグループというのが出来上がっているため、私はあまり深く関われる友人はできなかった。とはいえ、話をする友達はいる。
「そうか、ぼちぼちか。時に生更木、今日の放課後などは暇か?」
「え、ええ。暇と言えば暇ですけど。何かありますか?」
「うむ。実は君の家庭訪問をしておきたくてな」
突然すぎた。
家庭訪問といったって、私には家族はいない。それは煉獄先生だって知っているはず。いや、もしかしたら知らないのかもしれない。
だとして、家庭訪問するほど私は煉獄先生に心配をかけていたのだろうか。
「や、あの。先生、私の親は」
「ああ、知っている。なあに、ただ単に普段の君の生活を見に行くだけだ。ダメか?」
「……それは……だけど、私の生活を見たところでどうするんです?」
「……生徒の生活を把握するのは、担任の役目だ! 気にするな! では、六時頃にうかがうからな!」
からからと笑いながら、煉獄先生はデスクにある書類を手に取る。
「では俺は、今からこの書類を急いで終わらせる。生更木もほどほどにして帰りなさい」
嵐のような人だと思う。
慌ただしいとはまた違う。周りを巻き込んで自分の好きなことを言って実行して、私の意見なんかいつも曲げられてしまう。
それでも、先生から特別な扱いをされるというのは悪い気はしないものだ。
何となくうきうきした気分で、私はお茶菓子を買いながら家までの道のりを歩いた。
170901