太陽のような笑顔
明明白白
太陽のような笑顔
兄貴肌で面倒見が良くて底抜けに明るくて、頭も切れる。
私の幼馴染みはそんな太陽のような人間だった。
「杏寿郎、久しぶり」
「ん? ああ、コハルか」
そんな幼馴染みが久々に実家に帰ってくると聞き、私は彼の好物を用意して楽しみに待っていた。
朝からてんやわんやで料理をしたあと、夕刻に杏寿郎の家に顔を出せば、丁度おじさんの部屋から出てきた杏寿郎と出くわした。
杏寿郎は何でもこの度、鬼殺隊の柱に成ったのだとかで、おじさんに報告に帰ってきたのだ。
それから。
「コハル姉ちゃん!」
杏寿郎の弟の千寿郎は、私を見るなりとてて、と走り寄ってきた。
千寿郎も私の幼馴染みになるが、この子は私の弟のようなものだ。
杏寿郎と千寿郎は瓜二つで、今の千寿郎の姿は、小さい頃の杏寿郎にそっくりだ。ひとつ違うところと言えば、千寿郎は杏寿郎と違って泣き虫で甘えん坊なところくらいだ。
「千寿郎ったら」
私の足にぴったりとくっつく千寿郎の頭を撫でてやれば、千寿郎はこそばゆそうに目を細め、一層私の足に体を擦り寄せた。
「コハル姉ちゃん、最近会いに来てくれないから」
「ごめんごめん。私も忙しいんだよ」
嘘は言っていない。
私は一人娘だから、家事から仕事から色々なことを任されている。
ただ、嘘をついている部分もある。
私は杏寿郎のおじさんに会いたくないのだ。ある時を境に変わってしまったおじさんを見る度に、おばさん――杏寿郎のお母さんを思い出してしまうのだ。それから、杏寿郎の事も嫌でも思い出してしまうから、私はあまり杏寿郎の実家に顔を出さなくなっていた。
「ねえねえ、コハル姉ちゃん。今夜のご飯は何?」
「ふふ。何でしょう?」
「何だろう。兄上は何だと思います?」
「そうだな。俺達の好物に違いない。な、コハル?」
杏寿郎の家から私の家まで向かう途中でのこと。
にっかり笑う杏寿郎は、千寿郎の頭を撫でながら私を見た。昔から私は杏寿郎のこの笑顔が好きだった。包容力のある笑顔。不敵な笑顔。それでいて、何処か寂しさを含んだ笑顔。
「杏寿郎には何でもお見通しなんだね」
「えっ! じゃあ兄上の言った通りなんですか?」
「そうだよー。千寿郎の好きな物も沢山作ったからね」
私も千寿郎の頭を撫でてやれば、千寿郎は心底嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑みは杏寿郎の物とは違い、ただただ純粋に嬉しさを現すものだった。
私の家に着き、杏寿郎と千寿郎と夕飯を摂った後、千寿郎ははしゃぎ疲れたのか先に寝入ってしまっていた。
「千寿郎は相変わらず可愛いね」
私の膝の上で眠る千寿郎の頭を撫でながら杏寿郎に言う。杏寿郎はお茶を飲みながら私たちを見てにっかり笑う。
「千寿郎にとってコハルは母親のようなものだからな」
「母親かあ……」
「まあ、俺にとってもそんな感じだがな!」
「ええっ、私の方が杏寿郎より年下なのに?」
「ははっ、冗談だ。只の戯れ言だ」
「もう! からかったの?」
杏寿郎は時々よく解らない冗談を言う。私はそれをいつも本気にしてしまい、こうして杏寿郎に笑われることは珍しくない。
私と杏寿郎は二つ違いで、だけど杏寿郎は私なんかより大分大人だった。
170606