ドゥべ・ドゥべー

「ねえ、きみ。名前を与えられなかった星は、存在するの?」
 ドゥベ・ドゥべーはきれいに並べられた記録を――地球だと、ピアノを引くように、とでも言うのでしょうか――ポロロロロンと上品に触りました。まろい光がかの星を照らしている日のことです。毎度ながら、おもむろに一冊取り出し、パラパラと捲りはじめました。
「名前を与えるというのは、そのものを認識して定義することという。つまりこの世に存在させるということ。認識されずに定義はできない。定義を無くしては存在できない。現にここ一帯の星は、仮でも名前はつけられているよね。B 612とか。でも、そうね……ここから遥か遠く、我々がたどり着けないくらいのところにだって、きっと星はある。だけど見つけられないのなら、認識だって名前だってつけられないわけだ。名前を好き勝手付けて、定義する。そんなのは我々の忖度でしかないんだよ」

「それでも、秩序は守らねばなりません。それに名前が存在しないというのは……すこしさびしいです。そもそも、遥か遠くまで星があるなんて、どうしてわかるのですか?」

「そうだね。無いものの存在を証明するのは難しい。あくまでも、の話さ」
 
「無名の星になりたいな。自由で、静かにかがやきつづけているんだもの。さそりの火よりもずっと自由。名前を付けることは我々の物語に編み込むことと同義だよ。可能性を制限するんだ。磔にして殺して、一瞬を永遠にするはずが、そのもの自体を亡くしてしまう。もっと秘められている力があったかもしれないのに! それなら、矮小な奴らの記録に残らなくたっていい」
「でも、名前が無いのは深淵に落ちることを意味しますよ」
 ドゥベ・ドゥべーはフンと鼻を鳴らしました。
 「落ちた方がマシさ。少なくとも、縛られるなんてごめんだね」

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