憧憬だけで胸が痛い

目を開けると、見慣れた天井があった。ここは保健室で、僕はベッドに横になっていた。右腕にはガチガチのギプスが巻かれ、左腕にも包帯がぐるぐる巻きにされている。保健室の時間を確認すると授業の終わりどころか放課後になってしまっていた。これは相澤先生に怒られるだろうな、と考えて顔を横に向ける。

「・・・・・・?」

そこにあった花束に目を奪われる。黄色や緑、ピンク色の花で綺麗にまとめられた花束がベッドの端に置かれていた。真っ先に浮かんだのは卯依ちゃんの“個性”だ。花を包んでいる紙は、よく見たら今日の授業で使ったプリントだった。名前の欄に実操卯依と書かれているので、やっぱりこの花を置いていったのは卯依ちゃんということになる。

―――初めて、友達に花を贈ってもらった・・・・・・。

そんな出来事が自分に訪れるなんて考えてもいなかったので感動に震えていると、リカバリーガールに怒られてしまった。立て続けに怪我をしたことと、僕の体力のことを考えて治療は明日することを伝えられ、保健室を追い出される。

「卯依が酷く心配してたよ。あの子にあんな顔をさせるなんて・・・・・・師弟そろって全く・・・・・・」
「す、すみません・・・・・・」

どうやらリカバリーガールと卯依ちゃんは顔見知りのようだった。個性把握テストでも心配をかけてしまって、二日連続でこの怪我だ。この花もお見舞いに来てくれたときに置いていってくれたのだろう。

花束を抱えて教室へと向かう。卯依ちゃんは既に帰ってしまったようで、クラスメイトに囲まれて訓練での話をした。それから自分の荷物の上に花束を置いて、かっちゃんの元へと急ぐ。お母さんにも言っていない “個性”のことを、どうしても彼には伝えなければならないと思ったのだ。










かっちゃんに“個性”のことを伝えたあと、僕はオールマイトに、話したことを咎められていた。

「知れ渡れば力を奪わんとする輩が溢れかえることは自明の理! この秘密は社会の混乱を防ぐ為でもあり、君の為でもあるんだ、いいね?」
「はい・・・・・・」

もしもオールマイトの秘密がバレたら、“個性”の居所が明らかになってしまったら・・・・・・。オールマイトの言葉を重く受け止めて頷く。オールマイトは小さく咳払いをしてから一枚のDVDを差し出した。

「戦闘訓練の様子を撮ったDVDさ、緑谷少年は見られなかったから、特別にね」
「・・・・・・あ、ありがとうございます!」

“対人戦闘訓練”とペンで走り書きされたディスクを受け取って頭を下げる。クラスメイトの“個性”については、もっと詳しくなりたいと思っていたのだ。

「それじゃあ、また明日! リカバリーガールの元に寄るのを忘れないように!」
「はい!」

猛スピードで去っていくオールマイトの背を見送り、教室へと戻る。制服に着替えてから帰路につき、明日の準備を全て終えてからリビングのテレビでDVDを再生した。

僕の訓練の様子を見てお母さんが青ざめていた。治療は明日してもらうのだと話して落ち着かせてから、第二戦目に目を通す。組み合わせは轟くんと障子くんvs尾白くん葉隠さん。轟くんの圧倒的な力の差に目を見開いて映像を見続ける。建物への損壊もなく、核も無事に捕獲。即座に行われた敵の無力化。学ぶ部分は多い。ノートに鉛筆を走らせながら画面を見ていると、第三戦目の組み合わせが発表された。ヒーローチームは蛙吹さんと常闇くん、人数合わせで二度目の葉隠さん。敵チームは切島くんと瀬呂くん、そして卯依ちゃん。

「あれ・・・・・・この子、落し物の子じゃない?」

お母さんの言葉に頷く。オールマイトとのことは話せないから、高校入学で再会したのだと説明した。そんな偶然あるのね、とお母さんは画面に釘付けだ。

卯依ちゃんの戦い方を見るのはこれが初めて。“個性”のことも詳しくは知らないので、そわそわと落ち着かなくなってしまう。核のある部屋に植物を張り巡らせたあと、同じようにビル全体へと植物を生やしていく卯依ちゃんの動きをよく観察して、ノートへと鉛筆を押し当てた。