馬鹿なこと

食事を終えて控え室へ戻る私を八百万が引き止める。相澤先生の伝言として続けられた彼女の言葉に私はひたすら疑問符を脳内に発生させつつも大人しく従うことにした。A組の女子だけが揃って更衣室へ移動し、八百万が一人一人の服のサイズを測っていく。

八百万の“個性”で創り出されていく“それ”におかしいと思っているのは私だけか?

「卯依ちゃん可愛い〜!」
「・・・・・・ありがとう。お茶子も似合ってるよ」

頬を染めて笑みを浮かべるお茶子は文句無しに可愛い。可愛いのだが・・・・・・。

―――なんだこの格好・・・・・・。

「ねえねえ実操、髪弄っていい? アレンジしていい?」
「やっぱりチアはポニテでしょ!」
「同じ色のリボンも創りましょう! きっと似合いますわ!」

椅子に座らされ、女子陣が背後へと集まる。あれやこれやと意見を出し合い何度もやり直しを繰り返しながら、満足の行く出来栄えになったのか漸く解放される。達成感溢れる芦戸や八百万の表情に圧倒されつつも立ち上がると、何故か息の荒いお茶子が居た。

「卯依ちゃん・・・・・・良い・・・・・・」
「お茶子、ちょっと、目が怖いよ」

携帯を構えたお茶子がじりじりとにじり寄ってくるのを一歩引いて身構える。その後何枚か写真を撮られ、女子全員で自撮りを終えてから全員で会場へと向かった。

両手に握った黄色いポンポンを胸元まで持ち上げ、無意識に少し開いていた口を閉じる。女子全員がこの格好で応援・・・・・・?

―――雄英・・・・・・おかしい・・・・・・。






「どーしたA組!!?」

会場中に響き渡るプレゼント・マイク先生の声に、ポンポンで顔を隠す。女子全員チア服で応援なんて嘘じゃん。女子生徒全員が着るのなら紛れるだろうと思って我慢したのに・・・・・・。

「峰田さん上鳴さん!! 騙しましたわね!?」

八百万の憤慨した叫びが横から聞こえる。そうか、伝言役があいつらか・・・・・・。

「卯依ちゃん、大丈夫?」
「私は居ない」
「えっ」
「ここには居ない・・・・・・」
「実操?」

梅雨ちゃんと耳郎の心配する声が聞こえるが答えられる余裕がない。―――よりにもよって全国放送してる時に、俊典さんやエンデヴァー、知り合いのプロヒーローが会場に居るこの状況で、こんな格好・・・・・・。

「一生の恥すぎる・・・・・・!」
「そ、そんなに!?」
「似合っとるのに!?」

全身これでもかと赤くなるのが自分でも分かった。ひたすら顔を隠して唸り続ける私の周囲に女子が集まる。「峰田と上鳴のせいで実操泣いちゃったじゃん!」と声をあげる芦戸に、周囲は少しざわつき始めた。泣いてはない。

「う、卯依ちゃん・・・・・・! 大丈夫?」

出久の吃りがちな言葉に、そっとポンポンから顔を上げる。「っ!」と息を呑んだ出久がみるみる顔を赤くして足を止めてから視線を逸らした。

「そんなに見るに耐えないと・・・・・・?」
「え!? 違うよ!?」

バッとこちらを向いた出久は再び顔を赤くさせて動きを止めた。視線が逸らされることはないがそれ以上の反応もない。それ以上近付いてくることもない。

―――共感性羞恥ッ!

「は、はやく着替えようよ。先生の指示じゃないならいいでしょ」
「えー、せっかくだもん。楽しもうよ! みんなお揃いだよ!」
「透ちゃん好きね」

葉隠がポンポンを振り回しながら叫ぶ。おそろい・・・・・・。そう言われると「さっさと脱ぎたい」なんて思えなくなるのはなんでだろう。

「みんな一緒だから!」

腹を括ったようにお茶子が続ける。

「まあ、せっかくだし。アホ二人には後で制裁を与えるとして」
「これも思い出よ卯依ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・うん」

ポンポンを下げて顔を隠すのをやめる。梅雨ちゃんが「ケロケロ」と笑みを深くさせた。

「オイラはちゃんと気付いてたぜ。実操が着痩せするタイプだってことはな!」
「・・・・・・」
「ゴミを見るような目も良い・・・・・ッ!」
「峰田そろそろやめとけ。死ぬぞ」