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白瑛との会話を終えたアラジンは、慌ただしく黄牙の村へと向かっていた。それは、呂斎達を倒したあとにハルが一目散に帰ってしまったからだ。白瑛と青舜の応急処置を終えると、まるで自分のやるべきことは終わったと言わんばかりに馬に乗って去っていった。

白瑛が改めてお礼を言おうと手を伸ばすも、名前すら聞けずじまいで何も言えずに、ぎゅっと手を握る。遠のいていく鋼鉄の背と風で靡く赤い外套に目を奪われていた白瑛は、アラジンに鎧騎士の名前を聞いた。

「あの人はハルさんっていうんだよ。凄く急いでいたみたいだけど・・・・・・なにかあったのかな?」
「・・・・・・ハル殿・・・・・・」

名前を言ってはいけないという約束も無かったので、アラジンは素直に質問に答えた。白瑛は名前を繰り返して口にして、ハルが去っていった方角を見る。何故か、再び会えるような気がしてならなかった。



アラジンが村にたどり着くと、ハルはのんびりと馬乳酒を飲んで落ち着いていた。ええ・・・・・・と背を丸めるアラジンに、ハルは不思議そうに首を傾げる。飲み終えたハルは、黄牙の一族に世話になったと頭を下げてから荷物を手にテントを出て行った。腰を落ち着かせたばかりのアラジンはええっ!?と驚いて再び立ち上がる。

「ハルさん、行っちゃうの!? だって、定期市はまだまだ先で」
「ここに留まることはできません」
「どうして?」

アラジンの言葉にハルは目を瞬いた。忘れてしまったのだろうかと考えながら、自分がレーム帝国の人間だからだと答える。それを聞いても、アラジンはよく分かっていないようだった。

「・・・・・・詳しくは話せませんが、煌帝国の軍が出入りする村に、レーム帝国の私が居てはいけないんです」
「うーん・・・・・・」
「チーシャンへ戻る際は必ず同行しますから、定期市で合流しましょう。それまで私はどこかに身を隠します」
「ハルさん、煌帝国の人達から追われているの?」
「・・・・・・いえ、そういうわけでは」

アラジンはやはり不思議そうに首を傾げている。突然の出発に黄牙の一族は驚き、トーヤは寂しさを誤魔化すようにハルへ渡す食料を準備していた。恩人であるハルを、誰もが引き止めたいと思ったが、何か事情があることは理解できた。トーヤは保存のきく食料をハルへと手渡す。遠慮して受け取らないハルに、これはお礼だからと言って強引に渡した。

「アラジンを頼みます」

ハルはそう言って村を去っていった。定期市でアラジンを送り届けたときにハルとは会えるが、それでも残りの期間を共に過ごせると思っていたからか、急に訪れた別れが寂しくて仕方がなかった。