3

シンが三人を連れて行ったのは、バルバッド一番の高級ホテルだった。三人は宿代を払えないと言ったが、シンは自分が負担するから気にせず何日でも泊まっていいと笑った。アラジンが顔を明るくさせてシンを見る。ホテルに入っていくシンの背をじっと見ながら、ハルは目を瞬かせた。

明らかにサイズの合っていない服を纏い、腹や足をむき出しにしている男が出入りしていいホテルではない。案の定ホテルの利用者は目を剥いてシンを見ていたし、シンの行く手を阻もうと警備が押し寄せている。

ーーーそもそも、商人というのは本当だろうか。

シンの言葉すら信用できなくなっていたハルの前に、二人の男が奥から姿を現した。

「シン様! 今まで、どこへ行ってらっしゃったのですか?」

白い肌とそばかすが特徴の男性が警備に捕まっているシンに声をかける。アラジンとモルジアナが首を傾げて初めて見る二人へと視線を向けた。シンの説明を聞き、主人が世話になったことを感謝する部下に、ハルは疑ったことへの罪悪感を抱く。それから、シンの傍らに立つ赤髪の男に視線を向けた。

旅の道中で、二度もファナリスに出会うことになるなんて。自分に向けられた男の視線から逃れるようにハルがモルジアナを見ると、彼女もまた目の前の男性をじっと見つめていた。まだ確証を持てないのか、その視線はすぐに下がる。

シンの提案通りに、アラジン達は高級ホテルに宿泊できることになった。ハルは愛馬を従業員に預け、三人は案内役の女性に導かれるまま建物内を進んでく。四人用の広い客室へ通されると、アラジンは目を輝かせて寝台へと飛び乗った。モルジアナとハルの三人が寝転んでも充分な余裕がある程の寝台に、アラジンは興奮が隠せないようでゴロゴロと転がり始める。モルジアナは広さに戸惑いつつも、背負っていた荷物を部屋の隅へと置いた。

ハルはきょろきょろと部屋を見渡し、空いた右側の寝台の脇に荷物を下ろす。案内人がまだ部屋に居たため鎧を脱ぐことはせず、外套のみを取り外す。

ふかふかの感触を堪能し終えたアラジンに、案内人の女性が分からないことがあれば仰ってくださいね、と微笑む。アラジンは言葉通りに、この国に来てからずっと気になっていた質問を投げかけた。

「アリババくんて人を知らないかい? 僕の友達なんだ」

ガシャンと大きな音を立て、女性が持っていたものを床に落とす。動揺を隠せないまま震えた手で果物を拾おうとする女性に、ハルは即座に歩み寄ると落ちていたものを全て拾い、傍らのテーブルへと置いた。

「大丈夫ですか?」
「も、申し訳ありません」

ハルの差し伸べられた手を掴み、女性が立ち上がる。突然の変化にアラジンが戸惑いどうしたのかと問いかけると、女性は冷や汗を流しつつもアラジンへ謝罪し「アリババ」という名前に驚いたのだと話した。

首を傾げる三人を見て「よく考えれば珍しい名でも無かった」と自分に言い聞かせてから、女性は続けた。今のバルバッドで、アリババといえば指しているのは一人だけ。

耳に届いたその言葉に、三人は同じように目を見開いた。

「怪傑アリババ、この国一番の犯罪者でございます」