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アラジンとハルが並んで座る正面にアリババが腰掛けると、その退路を塞ぐようにモルジアナが背後に立った。アリババとアラジンが再会の挨拶を交わしたあと、揃って視線を落とすのを見て、モルジアナが痺れを切らした。「本題に入ってください」と厳しく言う言葉にアリババが顔を逸らす。催促されたアリババが力なく笑い声を零すのを見て、モルジアナが苛立ちを隠せずに口を開く。

「あなたの霧の団のせいで、今この国で何が起きているか知っていますか?」

怒りで声を震わせるモルジアナが思い浮かべていたのは、家族で奴隷狩りの被害にあったナージャのことだった。恐怖に怯え、震えていた小さな少女。あの家族はバルバッドの内乱から逃げようと国外へ出たところを捕まったのだ。霧の団が居なければ国から出る必要も、あんな恐ろしい目に遭う必要もなかった。

「あなたはチーシャンで私たち奴隷を、私財を投げうって解放してくれた人ではありませんか! とても感謝していたのに!!」
「・・・・・・」
「こんな! 他人のことを考えない人だとは思いませんでした!!」

モルジアナは瞳に涙を浮かべて叫ぶと、ぶすっと頬を膨らませて感情を堪える。感情をぶつけられたアリババも、むすっと険しい表情をして口を閉じた。

「まあまあモルさん」

そんな二人の雰囲気を和らげるような優しい声が室内に広がる。

「色々あって怒るのもわかるけどさ、せっかく四人で久しぶりに会えたんだし、そういえば今日は良い月夜だし・・・・・・」
「・・・・・・」
「みんなでもっと楽しい話をしようよ! ハルさんも、良いでしょう?」
「・・・・・・そうですね。半年振りの再会です。積もる話もあるでしょう」

穏やかな笑みを浮かべるアラジンと、静かなハルの言葉に、険しい表情だった二人が毒気を抜かれたように肩を落とす。

「ねえ、アリババくん」
「お・・・・・・おう!」

ピリピリとした空気が霧散したことで、アリババが半年前に抱いていた疑問を口にした。第7迷宮を攻略した後のことだ。アリババとモルジアナだけがチーシャンに戻り、アラジンとハルはどこを探しても見つからなかった。一体どこにいたのか、と尋ねるアリババに、アラジンはフフフ、と笑みを浮かべる口元を両手で覆い隠す。

「聞いたらおどろくよ?」

アラジンは、迷宮を攻略したあとのことを語り始めた。目を覚ますと黄牙の村に居たこと、すぐ近くにハルも飛ばされていたこと。草原で出会った人々のこと。

ある一族に家族として迎え入れられ、とても大切な人ができたこと。

その人が戦で死んでしまったこと。

黄牙の村がゴルタスの故郷だったこと。砂漠を越える旅、始めて目にした光景や生物。アラジンの口から出るたくさんの情報に、アリババは目を輝かせた。

「そりゃあ大冒険だったなぁ!」
「そして僕は、この国で君を探すために、霧の団を捕まえることになったんだ」
「・・・・・・」
「そこに君がいるとは思わなかったけど・・・・・・でもなんの理由もなく君がそんなことをするとも思わないんだ」

その言葉にアリババは口を閉じ、真っ直ぐにアラジンを見る。

「教えてよ、君が霧の団にいるワケを」

アラジンの透き通った瞳がアリババに向けられる。ハルとモルジアナの視線も同じように注がれ、決心したようにアリババは話し始めた。カシムという、自分の友人の話を。