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隊商長から水や食料を受け取ったハルは、早速隣町へ向かうために準備を始めた。アラジンは隊商との別れをしている最中だ。何年もの付き合いになる愛馬の背を撫でてから、アラジンに長時間の乗馬は厳しいだろうと考える。幼い子供が歩くには遠すぎる道のりだ。

サアサ達以外で隣町へ向かう隊商はないかと辺りを見ても見つけられなかった。代わりに視界に入った荷車へとハルは歩み寄る。傍に立っていた金髪の男に声をかけ、一人分の運賃を払った。ハルは男が異常に怯えていることに気付いたが、悪党を倒している光景を見られていたことには気付いていたので黙っていた。

「あれ、荷車で行くのかい?」
「あなたは荷台に乗ってください。私は馬でついていきます」
「どうして?」
「子供が長時間、馬の背に乗るのはつらいでしょう。荷台なら負担もありません」
「そっか。優しいんだね、ハルおにいさん」

アラジンの言葉になんと返せばいいかわからなくなったハルは、隊商に別れを告げ終えたのかと聞いた。アラジンが肯定したことで荷台にアラジンを乗せる。自分は馬の背に跨って運転手を見下ろす。怯えた様子で前方へと向かっていったその背を見送ってから、ハルは振り返りサアサ達に向けて小さく頭を下げた。広い世界、もう会うことはないだろうと考えて。

ハルはゆっくりと進む荷車の後をついていく。同乗していた親子がハルを気にしているのが分かる。鋼鉄の鎧に身を包んでいるものはこの地域では珍しい。運転手からリンゴを買うために荷台の横に並んだハルに、小さな少女が恐る恐る声をかける。その鎧は暑くないのかと聞かれたハルは「・・・・・・慣れました」とだけ答えて、買ったリンゴをアラジンへと手渡した。自身の懐から出した金貨で買ったリンゴを親子へも手渡して再び後ろへと下がる。

おそらく金持ちなのであろう恰幅のいい男、ブーデルが「用心棒もいるとは安心だ」と運転手を褒めちぎっていたが、ハルは何も語らなかった。


その後アラジンがブーデルの胸部をまさぐった騒ぎが起こり、アリババは荷車を止めた。怒りのままアラジンを掴んだが、ハルからの鋭い視線がありアリババはその手を緩めるしかなかった。騎士の剣が抜かれるのではないかと怯えつつ、ムカついて仕方がない子供にも分かるように丁寧に、男の身分を話した。

機嫌を損ねたら仕事が無くなる。やっていけなくなるということを。アラジンはしばらくポカンとしていたけれど納得したようだったので、アリババはほっと息をついて運行を再開させるために準備を始めた。

ハルはそんなアリババをじっと見張りつつ、背後を気にかける。好奇心を隠せないようでこちらを見つめる少女の視線にたじろぎながら、ハルは早々に馬へと乗った。