銀河の光輝

地を蹴ったハルが視界から消える。ジュダルが重力魔法を展開するよりも先に、ハルの剣先はジュダルの防壁に衝突していた。ハルの周辺に赤雷が奔り、防壁にヒビが入る。舌打ちをしたジュダルが振り上げた杖から氷の槍が現れ、ハルへと襲いかかった。氷は容易く剣で砕かれ、魔人の手の平がハルへ向けられる。

無防備になった魔人の隙を突くように、アリババの踵を支えたモルジアナが力を込める。アモンの剣は魔装によって黒い大剣へと姿を変えていた。
正真正銘、最後の魔力だ。

合図をかけてモルジアナがアリババの体を前方へと飛ばす。一直線に魔人へと向かっていくアリババに気付いたジュダルが重力魔法を展開し、斥力によってハルの体が城壁へと吹き飛ばされた。肉体が強く打ち付けられる音、壁が崩れる音がアリババの耳にも届く。

魔人の右腕が黒い刀のような形に姿を変える。ジュダルと魔人、二人分の魔力を込めた重力刀がアリババへ真っ直ぐに振り落とされた。その重さにアモンの剣が歪む。押し負けないようにとアリババが力を込めるも、その眼前で刀身に亀裂が走った。

残酷な甲高い音を出して、アリババの剣が砕け散る。地面に叩きつけられたアリババにモルジアナやバルバッドの兵が駆け寄った。半分の長さへと折れた剣を、絶望の眼差しで見下ろす。
もう打つ手はない、誰もがそう思った。

―――アリババ以外は。

アリババの視界の先に、戻ったハルの姿が映る。氷の槍を打ち砕き、赤雷を走らせ、ジュダルに向かっていく背を見た。

剣は残っている。
自分もまだ生きている。
ハルも戦っている。

「もう一度やらなきゃ」

アリババの言葉に誰もが言葉を失う。

「もう一度だ!!!」

その叫びに引っ張られるようにモルジアナがもう一度構えた。
モルジアナに飛ばされたアリババの体が、魔人の手によって再び地に落とされる。

ジュダルはハルとの戦いに集中しているようで、重力刀は魔人一人分の魔力しか込められていない。それでもなお、アリババの剣は魔人に届かなかった。

その横で、ハルとジュダルの戦いは続いている。

氷の破片、赤雷の残光が周囲へ降り注いだ。
魔法と剣が衝突する音。衝撃波によって生じた突風が辺りに強く吹く。
手加減など微塵も感じられない、本気の戦いが繰り広げられている。

防壁を破ったハルの宝剣がジュダルの体を傷付ける。
突きつけられた杖の先から放たれた魔法がハルの体に傷を付ける。

二人の血が鈍い音を立てて地面へ落ちた。
地面に打ち付けられたアリババの体からも、血が滴り落ちる。

三人の血が地面を色付けていく。
みるみる面積を増やしていくその赤に、モルジアナは顔を青ざめることしかできない。

増える傷。震えの止まない体。
それでも、アリババは諦めない。
立ち止まることがない。
今にも崩れ落ちそうな体を支えるために、折れた剣を地面へと突き立てる。彼の頭にあるのは一刻も早く、この戦いを終わらせることだけだ。


ハルがアリババの目の前に転がり落ちてくる。
白い装束と金の髪を自身の血とジュダルの血に染め上げ、ハルは立ち上がった。
その姿を見下ろし、氷のような無表情でジュダルが杖を振り下ろす。一直線に落ちてくる氷の槍。剣を握る手に再び力を込めてハルが魔力を込める。
その横へアリババが踏み出し、折れた剣を構えた。

天を見上げたアリババの視界に、眩い光が飛び込んでくる。真っ直ぐにこちらへ向かってくるその輝きは、アリババとハルの目前に落ちた。
地を揺らす轟音。氷の槍は一瞬で弾かれる。
ふらりと尻餅をついたアリババがゆっくり目を開いた。

逆光によって影になったその背はよく見慣れたものだった。この背に、この存在に、自分は何度も救われていた。

「本当、君っておかしな人だよね」

白い輝きが霧散していくように、その影は薄くなっていく。
青い髪が空に舞い、その少年は振り返った。

「でも、そんな君だからこそ。僕は力になりたくて・・・・・・

―――君に手をのばすんだ。何度でも」

強い意志を抱く青い瞳。どこか晴れ晴れとした表情で、座り込んだアリババへと手を差し伸べるアラジン。長い眠りから覚めた友人の姿に、アリババは安堵と驚きで言葉を失うのだった。