それはある日のことだった。
バケツをひっくり返したように強い雨が降る日だったし、よく覚えている。
私がいつものようにバイトへ行っていたその帰り道での出来事だった。
いつもなら結構人が通ってるはずの道も、この雨のせいだろうか人っ子1人いやしない。
「すごい雨!傘差しても意味ないよこんなの!」
強い雨と風で、傘を差しているけどもはやほとんど意味がないけど気持ち的な問題で傘を差していた。
服もびしょ濡れで、せっかく仕事が終わって解放されて喜んでいた気持ちが一気に沈んだ帰り道だった。
帰ったらすぐにお風呂入ろう。
お風呂に入って寛いで、そして暖かくなった体でお風呂を出てテレビを観るんだ。
そーいえば昨日レンタルした映画まだ観てないし早く観たい。よし、早く帰ろう。
家に帰ってからの計画がどんどん頭の中で出来上がっていく。私は早く帰りたくて歩みを早めた。
その時だ、路地裏から人影が現れたのは。
その人はこんなにひどい雨にも関わらず傘を差していないし、何よりボロボロで肌から血が出ていた。
無視なんて出来るわけなかった私は思わず駆け寄って、その人に傘を差したんだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「!」
ひどい傷だ……、この人もしかしてヒーローなのだろうか?こんな傷だらけで歩いてる人を見ると、ヒーローなんじゃないかと勝手に推測を並べる。
そんなことより早く病院に……!
「ちょっと待ってください!病院に電話…」
「好きだ」
………はい?
携帯を取り出そうと鞄の中を漁る私の耳に、場違いな言葉が聞こえた。
思わず動作を止めて声のした方を見上げると、私が傘を差し出した彼が目の前にいる。
もしかして、もしかしなくても、彼の声だろうか?
「ぇっと…」
「俺は大丈夫だから電話ならいいぞ」
「あ、ハイ」
「傘もいらない。ありがとうな」
状況がまったく理解できないまま彼は何事もなかったように話始めるから、私の空耳なのかと思った。
差し出した傘も私の方へ向けられ、そして彼は微笑んだ。
「お前、今仕事帰りだろ。お疲れ、気をつけて帰れよ」
「ハイ」
「じゃあな」
立ち去る彼を私は見送ることしかできなかった。
いやいやまてまて!
なんかおかしくない!?
なんであの人私が仕事終わりだって知ってるんだ!?
思わず流されるように相槌うって別れちゃったけど間違いなくおかしくないですか!?
もしかしてあの人私に好きって言った!?!?
は!?!?!?
しかも仕事帰りだって知ってる!?
誰なのあの人!?私知らないんですけど!
追い掛けて問い詰めようにも、そんな勇気ないし、というか直感的に私は関わりたくないと思ってしまった。
せっかく立てていた帰ってからの楽しい計画は、見事に彼のせいですべて忘れてしまった。
「あの人誰なんだよぉ!!」
──私はその日、彼と初めて出会った。
衝撃的過ぎて一生忘れられないであろう出会い方だった。
そんな彼は後に私に云う。
「あの時すごく、お前が好きだと思ったんだ」と。
だから勝手に口が動いていたのだと。
今そんなことを聞くと恥ずかしく思うが、あの頃の私は正直に言って彼に対して気持ち悪いという感情以外持ち合わせていなかった。
そんな私だけど、近い未来に気持ちが変わる。
まるで恋する乙女のように、
まるで初めて恋をするように、
私は彼を好きになる。
そんな未来が待ち構えているなんて。
きっとこの頃の私は、まったくもって微塵も思ってないだろう……。
──これから始まるのは、滑稽に思えるほどおかしな恋物語だ。