いきなり変なことを言い出した轟くん。
あまりにも突発的で、意味不明だ。
私が馬鹿だから理解が追い付いてないとか、そういう次元じゃないよもう。
「実家には行かせません」
「でもいつかは必要だろ」
「ないから。てゆーか96以上採れる自信あるの?」
「100採れたら問題ねぇだろ」
「いや、そんな簡単じゃないから」
「おい緑谷、コレどう使えばいいんだ?」
「私の話を聞け」
曲を選択するタブレットの使い方を出久に訊ねてる時点でアウトな気がするぞ轟くん。
ちょっと待ってくれ。
いやあのね、まさかね?え?
轟くんってカラオケ来たこと、ある、よね…?
採点について簡単そうに言ってる時点でまさかとは思ったけどそのまさかなのか?
「これはね、こーして…」
「ほお」
いや、出久も呑気に教えてないでそこはツッコめ!
「轟くん轟くん」
「?なんだ」
「カラオケ、来たことある?」
「ない」
真顔で当然みたいに言うんじゃないよ!
いや、別に悪いことじゃないし馬鹿にしてるわけでもないけども!
ないくせに「100採れたら問題ないだろ」なんて言葉よく言えたなっ!!!
「轟くん、採点はね、難しいよ?」
「そうなのか緑谷?」
「まあ、うん。歌が上手い人でもなかなか難しいと思う」
「歌が上手い奴でも難しいってなんだよ。この店タダにする気全然ねぇじゃねーか」
いや、それは思ってても言わない方がいい。
轟くん結構言うね、君。
店の人いないからいいけど、それ店員の前では絶対言っちゃいけないやつだからね君。
「ていうか採点とかいいから普通に歌お!私楽しみたいだけなんだから!」
「もう少し下げるべきだろこの数字」
「もういいからっ」
その無料システムには触れない方向で!
それに轟くん初心者なら普通に歌うだけの方が絶対楽しいと思うよ。
「数字にこだわったって仕方ないよ」
「そーだよ」
出久が私の言いたいことを言ってくれた。
さすが出久、わかってるじゃないか。
「俺は数字というかこの店のシステムに」
「ちょっと黙ろうか轟くん」
普通に遊びに来ただけなんだから!
この店にクレーム出しに来たわけじゃないから!
何かと細かいことを気にしていた轟くんに、タブレットの使い方を教えて曲を選曲する。
「私先でもいいの?」
「いいよ。僕まだ決まってないから」
「俺もいい」
「じゃあお先に」
歌いたい歌を検索し、曲を入れる。
選曲した曲が流れて私はマイクを構えた。
「あ、この曲知ってる。いい曲だよね」
「あ、出久知ってるんだ!」
「うん、人気だもんね」
「私この曲大好きなんだ!」
「僕も!」
出久が私の好きな曲を知っていたことに吃驚したし、この曲を好きだと言ってくれた。
それが嬉しくてついテンションが上がる。
私と出久で盛り上がっていたら、轟くんは若干ムッとした表情を見せる。
「曲始まってるぞ」
「あ、ホントだ」
盛り上がり過ぎて歌うことを忘れていて、途端に歌詞を歌にする。
轟くんを横目に見れば、やはり不機嫌そうだった。
2人だけで盛り上がってしまうのは確かに悪いことをしてしまった。
つい好きなアーティストだからテンションが上がってしまったが、1人だけ取り残されるのは確かにいい気分ではない。
轟くんに申し訳ないことをした、と反省する。
歌い終わってソファに座ると、轟くんが真っ先に口を開いた。
「…歌上手いんだな」
「え?そんなことないよ。歌上手いなんて言われたことないし」
「上手かったぞ」
「あ、ありがとう」
轟くんの眼は真っ直ぐ過ぎて、少し苦手だ。
思わず目を逸らしたくなる。
その瞳に逆らえなくなる時がある。
話題を逸らそうと、メニューを開いてドリンクを選ぶ。
「2人は何飲む?私ミルクティー」
「僕はオレンジ」
「轟くんは?」
「お茶」
「他には?」
意識しないように、ただ純粋に楽しむために、私はただただ友達といる時間を楽しく過ごした。
たくさん歌って、たくさん笑った。
この時間だけはせめて、2人の気持ちから目を逸らせるように。
時々向けられる真っ直ぐな瞳から目を逸らし続けた。
悪いとは思っていても、それでも許して。
ちゃんと向き合うから。
ちゃんと2人と、向き合うから。
せめて、今だけは……。
「また遊ぼうね」
また次があるように。
そう、言い合えるように。
この空間だけは、お互いに友達でいようよ。