フード店でお腹を満たして満足し、その足で次に向かったのはカラオケ店だった。
その道中も出久とたくさん他愛ない話をして、楽しくて仕方なかった。
だけどその足は確実にカラオケ店に向かっていたはずだった。
「お」
間抜けな声が聞こえてそちらをチラリと気になったから横目で確認してみた。
しかし軽い気持ちで見たはずだったのに、二度見してしまってそのまま言葉にならない声を上げる。
「ぅえ!?…ちょ、え?」
「今日は緑谷と一緒か」
「いやいやあの…」
「そーいや今日バイト休みの日だったか?」
「相変わらず私のシフトを知り尽くしてる感じやめてくれ!さすがに気持ち悪いから!」
出会う頻度が相変わらずヤバい轟くんと遭遇してしまって私は頭を抱えたくなった。
せっかく出久と楽しんでたのに!
「あの!轟くんさ!悪いけど今は!」
「轟くん空いてるの?」
「お?」
「空いてるなら一緒にカラオケ行かない?」
「は?」
おいおいおいおいおい。
さすがの私もお手上げなんですけど。
お人好しどころの騒ぎじゃないじゃん!
出久自分がなに言ってるのかわかってる?
「あのさ出久、なんでそんな勝手に」
「僕と2人でいて変に意識するのもされるのも嫌だから、つい…」
「ちょ…」
なにその理由!そんな納得のいく理由言われたら何も言い返せないんですけど!?
確かに私的に2人だけの空間になるの今更だけどちょっと意識してたから何とも言えないわ!
お互いに意識してるくせに言い出せずにそのままカラオケ店行こうとしてたとか考えるだけで怖いもん!
「俺がいてもいいのか」
「是非」
最初は嫌だったけど今は大歓迎です。
むしろウェルカムです、一緒に来て下さい。
幼馴染と2人きりの空間で意識しちゃって変な空気流れた時とか私考えるだけで胃が痛くなる。
そんなことになるくらいなら轟くんにも来てもらおう、是非一緒に来てもらおう。
改めて、私達は轟くんを迎えて再度カラオケ店に向かうことにした。
近所のカラオケ店に入って、カウンターで案内を済ませた後、指定された部屋に入ってから上着を脱いでハンガーに掛けてソファに座るまでの流れを終わらせたのは先程の話。
さて!これから何歌おうかな!って時に轟くんがカラオケ店の飲食メニューを見て呟いた。
「おい、採点で96以上出せたら一食無理らしいぞ」
「轟くんがそーいうことに食い付くとは思わなかった」
「でもいいじゃん!やってみようよ!」
「いや、96は高過ぎるって。無理だって」
メニューに書き込まれていた内容を見て苦笑いを漏らす出久は何かとマイナス思考で、諦めがち。
そんな出久を横目に轟くんが「緑谷、お前本気で言ってんのか」と眉をひそめる。
「体育祭でボロボロなくせに俺を煽ったお前がよくそんな弱気なこと言えるな」
「いや、あれは違うじゃん。僕自信ないもん」
「あの時は俺に勝てる自信あったんだな」
「ないわけじゃなかったよ?でもね?ちょ、待ってなんか語弊があるよ」
何やら言い合いらしき事が起きる中、私は2人の間に入って「まあまあ、おちついて」と宥める。
そしたら2人の目線が私に向くじゃないか。
え?なに?ちょ、怖いよやめてその目線。
「緑谷、勝負しろ」
「は?」
「え?なに?」
轟くんがいきなり出久に勝負を仕掛けた。
その言葉に吃驚して目を丸くする私と出久。
「いやあのさ、僕歌は下手」
「勝った方がnameの実家に行くぞ」
「え?なんのために?」
「もちろん親に挨拶だ」
「いや意味わかんないんだけど」
何の挨拶するつもりなの。
いろいろぶっ飛び過ぎて思考がまた置いてきぼりなんですけど。勘弁しろまじで。
「いや、2人も行ったらさすがに焦るだろ親が」
「親の前に今の時点で私が焦ってる」
「何も焦る心配はねぇよ。幸せにする」
「なんの話してんのまじで」
え?カラオケしに来たんだよね?
「実家に挨拶、さらにはnameに好きな物タダでやれるんだぞ。一石二鳥じゃねぇか」
「タダでってのが気に入らないわなんか」
「?その分安く済むじゃねぇか」
「私の扱いがナチュラルに雑じゃないか?」
遠回しに「お前に払う金はない」って言われてるようなもんじゃね?
いや、第一そこじゃないから。
実家に挨拶ってまじでなんなの。